「イツモフさん。今日はどうもありがとうございました」

「こちらこそ、今日は特に楽しかったです」

 へーへーそーですかそーですか。

 好き勝手できた二人はさぞ楽しかったでしょうね。

 ただただ振り回されていただけの俺は楽しくなかったよ。

 三振王のバッドもこんな気持ちなのかなぁ。

 二人が談笑している姿を見ながら、俺はソファに寝そべって眉間をもみほぐしていた。

「では、こちらが今回の報酬です」

「え? こんなにも? 本当にいいんですか?」

「有意義な時間を過ごせましたから、お約束の十万リスズに、チップの五万リスズも」

「そんなに高いのかよ!」

 思わず声を張り上げてしまった。

 イツモフさん、あなた夏祭りの射的屋と同じくらい、あこぎな商売してますなぁ。

「ってか借金あるやつがチップなんか渡すな。感謝の気持ちは過度なお礼で済ませろ」

「誠道さん。イツモフさんが言っていましたよね。人の笑顔で物が買えますか? と」

「それを鵜呑みにすんなって! そもそも借金してる人からもらったお金で物が買えますか? 良心が痛みますよね?」

 イツモフさんに問いかける。

 善良な人間なら、借金をしている人からお金をたからないはず。

「どうしてですか? もらったのだから、もうそれは私のお金ですけど」

 こてっと首を傾げるイツモフさんがそこにいました。

 ああ、だめだったこの人、生粋の金の亡者だ。

「そんな顔しないでください。大丈夫です。本当はわかっていますから」

 俺の反応が面白かったのか、イツモフさんが口に手を添えて上品に笑う。

「私は鬼ではなくて、マジメンタリストですからね」

 なーんだ、冗談か。

 そりゃそうだよね。

 さすがに債務者からお金はたからないよね。

 イツモフさんがミライの方に向き直り、一礼する。

「ミライさん。お気持ちは嬉しいですが、ケチ道……じゃなくてセコ道、でもなくて誠道くんが子供みたいに駄々をこねるので、チップ分だけは仕方なくお返しします」

「やっぱり金の亡者じゃねぇか!」

 俺がそうツッコんだときだった。

 頭の中に疑問符がよぎりはじめる。

 ……ん? 金の亡者?

 なんだろうこの既視感は。

 ザケテイル、金髪のボブヘアー、金の亡者。

 イツモフ・ザケテイル。

 やっぱり俺、この人に前どこかで会っているような。

 ああ! 思い出せそうで思い出せない!

「はぁ、全く、生きづらい世の中になったものです」

 俺が心の中で苛立っていると、イツモフさんがサングラスを取ってあからさまなため息をついた。

 彼女の目は綺麗な金色で、右目の下には泣きぼくろがひとつ…………泣きぼくろがひとつ!

 ジツハフ・ザケテイル!

「お前もしかして、あのとき俺らをごろつきに売りやがったジツハフの姉か!」

 そう詰め寄った瞬間、イツモフさんは「あ、やばっ」と呟いて、急いでサングラスをかけなおした。

「な、なにを言っているんですか? ワタシ、アナタトハジメテアイマシタネ」

「誤魔化し方声優起用の芸能人か。てめぇ、あのときはよくも」

「はぁ。ほんとクレーマーって最低ですよね。叫べば言うことを聞くと思っている。大きい声を出したもん勝ちの世の中から早く変わってほしいですよ」

「なんで俺がクレーマーみたいになってんのかなぁ?」

「クレーマーは自分のことをクレーマーだと思っていないそうですよ」

「たしかにお前は自分をクレーマーだと思っていないようだな」

「わかりましたよ。はぁ、チップ分は返しますって、さっき言ったじゃないですか」

 ようやく観念したのか、イツモフさんはミライに三万リスズを返金する。

「いやセコっ! 渡したチップの額より少ないだろ!」

「ちっ」

「今舌打ちしたよね。お前の方がセコテイルじゃねぇか」

「へーへーわかりました。それじゃあ残りの二万は利息つきの後払いということで」

「生粋の金の亡者がここにいますよー」

「わかりました。ではそれでお受けいたします」

「ミライさんは謎の利息がついてるのに納得しないで!」

 その後紆余曲折あり、ようやくチップ代は全額回収することに成功した。