背後から声がして、振り返ると血相を変えた女の人が立っていた。

 ボブヘアーの金色の髪は宝石のように輝いている。

 瞳の色も金色で、右目の下には泣きぼくろがひとつあった。

 たぶん、俺と同い年くらいだが、ずいぶんと大人びた印象を受ける。

「あ、お姉ちゃん」

 なるほど、こいつが金の亡者お姉ちゃんか。

「ジツハフ! 大丈夫?」

 金の亡者お姉ちゃんは弟を見つけると、すぐに駆け寄って抱きしめる。

 俺と聖ちゃんをぎろりと睨みつけ。

「弟のバイトの様子を見にきてみたら、あなたたち、幼い子を脅すなんて恥を知りなさい」

 金の亡者お姉ちゃんでも、弟を思う気持ちに嘘はないんだなぁ。

 でも、どうやって誤解を解こうかなぁ。

 俺が思慮を巡らせていると。

「違うんだ。お姉ちゃん。僕が悪いんだ」

 どうやら、その心配はなさそうだ。

「どういうこと? ジツハフ」

「実は、僕がこの聖お姉ちゃんの大切な剣を盗んで、それを売ってお金を稼ごうとしたのが原因なんだ。でもその剣を壊しちゃって、今ちょうど謝っていたところなんだ」

「……あれ? なんかさ、さっきからちょっとだけ思ってたことなんだけど、説明が子供にしては流ちょうすぎないかなぁ。まさかその涙はうそな」

「それは本当なの?」

 俺のツッコみを無視した金の亡者お姉ちゃんは、聖ちゃんとジツハフくんを交互に見る。

 聖ちゃんが小さくうなずいてから口を開いた。

「ジツハフくんはお姉ちゃんのためにお金を稼ごうって必死だったんです。それでこんなことをしでかしてしまって。その気持ちを、お姉ちゃんであるあなたがしっかり受け止めて、これからの行動を変えていかなければ」

「ジツハフ! あなた……お姉ちゃんのために」

 聖ちゃんが言い終える前に、金の亡者お姉ちゃんは涙しながら弟を抱きしめた。

「お姉ちゃん! ごめんなさい! 僕、人の物を盗んで、ごめんなさい!」

 ジツハフくんもお姉ちゃんに抱き着く。

 ああ、よかった。

 弟の健気な思いが、金の亡者だったお姉ちゃんを、弟思いの素敵なお姉ちゃんに変えたんだ。

 なんだか視界が滲んできたぞ。

 姉弟愛がこんなにも眩しいなんて思いもしなかったなぁ。

「ジツハフ。謝らなくていいわ。だってあなたは、壊してしまったことをきちんと謝れたもの」

 まずは弟のよかったところを褒めてやる。

 なんだ、いいお姉ちゃんじゃないか。

「でも、僕盗みを働いて」

「お姉ちゃんがそんな些細なことを責めたことがありますか?」

「いやちゃんと叱れよ!」

 俺の感動返してー。

「叱る? 一体なにをどう叱れと? この子が必死にお金を稼ぐ方法を考えだした。それは褒められるべきことです。犯罪はばれなきゃ犯罪じゃないんです」

「いやばれてますけど?」

「その辺に大事なものを置いとく方が悪いと思うのですが」

「百パーセント盗む方が悪いからな!」

 開き直った金の亡者に正論をたたきつける。

 なんだよ、こいつ超ヤベェやつじゃん。

 痴漢されるのはお前が女に産まれたからだ、みたいな暴論持ち出してくんじゃん。

「うっ。たしかに私は地面にジャンヌダルクを置いてぐちゃぐちゃ道に夢中に……。それを言われてしまうと言い返せませんね」

「いや聖ちゃんはしっかり言い返してね。犯罪者の正論っぽい暴論を許すな!」

 こうして謎の泣き寝入りが生まれるのかぁ。

 性被害がなくならないわけだよ。

 ……って。

「おい、いつの間にか囲まれてるぞ」

 金の亡者と無意味な言い争いをしていた俺たちは、気がつけば怪しげな集団に取り囲まれていた。