「あれ? 帰るんじゃないんですか?」

 ミライからいぶかしげに見つめられる。

「帰れるわけがないだろ! なんとしてでも聖ちゃんを落札しないと」

「え? どうして聖ちゃんにそんなに固執するんですか?」

「さぁ、幼い顔立ちのココナ・ヒジリちゃん。大変可愛らしいですねぇ。いろんな用途に使えそうですねぇ」

「今の説明を聞いて危機感を覚えない方がおかしいだろ!」

 聖ちゃんは控えめに言って可愛すぎる。

 だからこそ、まともな価値観を持つこの俺が落札してやらないといけない。

 もし他の人が落札したら聖ちゃんはどうなるか、想像しただけで恐ろしい。

「いいかミライ。背に腹は代えられない。いくら積んでもいいから、俺たちで聖ちゃんを救うぞ」

 それに聖ちゃんは、異世界ではじめてできた友達だ……と俺は思っている。

 だが、聖ちゃんが俺のことを友達だと思ってくれているのかはわからない。

 知り合いのひとりくらいにしか思っていないかもしれない。

 だからこそ、俺が聖ちゃんのためになることをしないと、すぐに忘れ去られてしまう。

 せっかく得た、失いたくないと思ったつながりなんだ。

 つき合って利益のない人間を信頼したり、大切に思ったりすることなんてありえない。

 誰かに友達だと思ってもらえるようになるためには、俺と関わっていれば利益があるよと証明しつづけなければいけない。

 どちらか一方だけがなにかを享受しつづけるのは人との関わり方として不適切だと思う。

 聖ちゃん目線で考えると、ゴブリンの方が睾丸や快楽を与えているから、俺はゴブリン以下の存在だ。

 さすがに違うか?

「そこまでして聖ちゃんを自分のものにしたいんですね。わかりました。へんたみちさんはああいう可愛らしくて背の低いロリッ子が好きなんですねぇ」

「ああもうそれでいいよ」

 なぜか拗ねているミライは放っておいて、俺は頬を二度たたいて集中し直す。

 聖ちゃんを救うため、どんなに高額だろうと構わない。

 彼女の人生がかかっているんだ。

 友達だと思ってもらいたいんだ。

 そう思うと二重の意味で負けられない。

「さぁ! それでは100リスズからスタートです!」

「200リスズ!」

 先ほどと同じく、景気づけに一発。

 よし声は出ている。

 これならこのオークション会場に集いし歴戦の猛者と対等に戦えるぞ。

「おい、またアイツが入札したぞ」

「あの変態ナンバーマンね」

 おいそこのやつ、クレジットカードのヒーローみたいに言うな。

「200リスズ! いませんかー? 可愛いですよー?」

「でもあの子はちょっとねぇ」

「入札したらロリコンだって声高に宣言してるようなもんだしなぁ」

 あれ?

 この流れ、どこかで経験したことあるような気が……。

「あいつ、ド変態のくせにロリコンでもあるのか?」

「俺、ココナってやつ知ってるぞ。ゴブリンの睾丸をむしり取るのが趣味のやべぇ女だよ」

「ってことは、あいつもそれを望んで?」

「睾丸むしり取られ川へんたみちさん。絶対に私の半径五メートル以内に近寄らないでくださいね」

「まじかよ! じゃああいつは睾丸をむしり取られたがりの変態なのか。ロリコンドMでもあったのか」

「濃すぎる性癖が渋滞起こしてんぞ!」

「おいそれ以上しゃべるなって。今の俺たちの言葉もドMのアイツにとっては極上の誉め言葉になっちまう」

「そうか! だからあいつ変態性癖をフルオープンにして堂々と入札できるのか! あいつきっとただの変態じゃねぇ。変態の神様だぁ!」

 最終的に俺は変態の神様に任命されました。

 もう、やめてくれぇ……。

 俺、ロリコンドMの変態の神様としてなんか生きたくないよ。

 人目にさらされるたびにその言葉をかけられたら、もう耐えられない。

 ……よし、こうなったら引きこもろう。

 ずっとずっと引きこもって暮らそう。

 それと、これを指摘するのは二度目だが、オムツおじさんにあれだけみんながっついといて、俺のときだけ変態扱いっておかしいだろ!

「さぁ、本当にいませんか? 200リスズですよ! 200リスズです! 9……10! はい! 072番! 200リスズで落札です! おめでとうございます!」

 俺は人間としての尊厳と400リスズを失い、その対価として変態の神様に就任しましたとさ。

 めでたし、めでたし。