「123番の方! 1億リスズで落札です! おめでとうございます!」

「515番の方! 8700万リスズで落札です! おめでとうございます!」

「066番の方! 1億3000万リスズで落札です! おめでとうございます!」

 その後も、オークションは高額落札のオンパレードだった。

 一番安い価格で5600万リスズ。

 商品は古龍の爪の化石。

 これまでで一番高かったのはなんと!

 ……まだオムツおじさん。

 ほんとどうなってんの、参加者たちの価値観は。

 古龍の爪の化石なんてめっちゃ価値ありそうじゃん。

 オムツおじさんなんて、いい年こいたおじさんがオムツはいただけだよ。

「なぁミライ。これ俺たち、場違いだったんじゃないか?」

「なにを言っているんですか。気持ちで負けてはだめです」

「でも、最低価格が5600万だよ? 俺としては、がんばって出せても100万くらいかなぁなんて考えてたんだけど」

「さぁ! つづいては非常に珍しい本の登場です!」

 俺の嘆きを遮るようにして、クションさんの言葉が会場に響き渡る。

 それまでは商品が紹介されるたびに熱狂の渦に包まれていた会場が、なぜかしんと静まり返った。

「ま、まじかよ。次が噂のアレか?」

「本……だからそうじゃないか?」

 不穏なざわめきが観客を支配していく。

 それまでとは違う明らかに異質な空気に、俺は思わず息をのんだ。

「さて、今回出品される本はこちらです!」

 通路の奥から台が運ばれてくる。

 その上には、ピンクの光を放っている本が乗っていた。

「こちらの商品ですが、なんと! 読むだけでここに書かれてある必殺技を習得できる魔法の書です。大変珍しい商品ですので、みなさまふるってご参加ください!」

 ついにきた。

 背筋がぞわりと波打つ。

 俺の目当ての品、服が透けて見えるようになる必殺技を習得できる魔本だ。

「やっぱり、みんなこれを狙っているのか」

 会場のざわめきはとどまるところを知らない。

 みんな、この本を買うためにどれだけの額を用意しているのだろう。

 出せても100万の俺が落札できるのか?

「弱気になっちゃだめだ、俺」

 男には、絶対に負けてはいけない瞬間がある。

 それが今だ!

 どうせ無理だろう思ってはだめ。

 入札しない人は、絶対に落札はできない。

 どれだけ高額になったって一歩も引かないぞ。

 服が透けて見えるんだぞ。

 その権利を手に入れられるなら、一生肉体労働生活でいいじゃないか。

 奇跡を! 神よ!

 俺に力をわけてくれ!

「では、まいります! 100リスズからのスタートです!」

「200リスズ!」

 先手必勝だ! と俺は番号を掲げて叫んだ。

 まあ、この値段で落札できるとは思っていないが、いざってときに小さな声しか出ないのは最悪だからね。

 練習練習っと。

「はい! 072番! 200リスズです!」

「俺の番号ふざけんなよ!」



 …………。



 ……………………。



 ……あれ?

 なんだか様子がおかしいぞ?

 どうして俺の後に誰もつづかないんだ?

「おい、あいつ入札したぞ」

「この本って、服が透けて見えるって魔本だろ?」

 会場のあちこちで屈強な男どもが、俺の方を睨むように見つめているが……え?

 誰も入札しないの?

 もしかしてこのまま落札できる?

 200リスズだよ?

 超ラッキーなんですけどー。

「他にいませんか? まだたったの200リスズですよ」

「あいつ、恥ずかしくないのかよ」

「だってあれに入札するってことは、俺は変態ですって叫んでるようなもんじゃん」

 ……ん?

 なんか流れ変わってね?

 もしかして俺これ今、醜態をさらしてる?

 俺って今ただの変態なの?

「さぁ、本当にいませんか? 200リスズですよ! 200リスズです! 9……10! はい! 072番! 200リスズで落札です! おめでとうございます!」

 クションさんが叫ぶように言った瞬間、俺にスポットライトの光が当たる。

「あの変態本を落札したのはあいつか!」

「あいつが変態か!」

「たしかにものすごい変態顔だな!」

「番号も変態に相応しかったな!」

「変態は変態力を使ってすべての変態要素を引き寄せるんだ!」

 なんだこの気持ち。

 落札できたのに全然嬉しくない。

 ってか変態力ってなに?

 この試合に勝って勝負に負けた感よ。

 隣のミライを見ると、腹を抱えながら笑いを必死でこらえていた。

「ふふっ、お、おめでとふっ、ごございますっ。へんたみちっ、さん。お目当ての魔本が落札できましたね」

「おい笑うな! なんだこれ! 俺は変態じゃねぇぞ!」

「それ以上私を見ないでください話しかけないでください。私も変態だと思われたら心外です」

「俺はあなたの支援相手ですよ」

 ってかオムツおじさんにあれだけがっついといて、俺のときだけ変態扱いっておかしいだろ!

 あのマダムにも変態って言えよ! 罵れよ!

「さて、この魔本は200リスズと本日最安値を更新してしまいましたが、次の商品はみなさまの期待を上回ること間違いなしです! それではご覧ください!」

 俺に対する冷たい視線と「変態ヤベェ」という言葉が鳴りやまないまま、次の商品が入ってくる。

 最初と同じ檻だ。中には人間が入っている……ってそんなのどうだっていいからもう帰っていいかな。

「ミライ、俺もう出るわ」

「…………」

 ガン無視。

 だめだ、こいつ完全に他人のふりしてやがる。

 だったらもう知らん。

 俺だけ先に帰るからな。

 結果として変態の烙印は押されてしまったが、これで俺は神の力を手に入れたのだ。

 係員から魔本を受け取ったらすぐ必殺技を習得してバーの出口あたりに潜み、この会場にいる女ども全員の下着を拝んでやるからなぁ覚えとけぇ!

 俺はこれから起こる奇跡――女の下着盗み見放題――だけを心の支えにして生きていくんだからぁ!

 強い覚悟を胸に秘め、そそくさと席から立ちあがる。

 これから手にする将来を想像すれば、にやけが止まらない。

 ぐひひひひ、と思わず笑いそうになる。

 口を手で押さえながら歩き出そうとした瞬間、クションさんの声が耳に飛び込んできた。

「つづいての商品は、こちらの可愛らしい女の子です! 名前はココナ・ヒジリ!」

「あいつはなにをやってんだよぉ!」

 俺は即座に座り直した。