心菜さんの家は、俺の家がある北区画の反対側、南区画にあった。

 間取りは俺の家と同じなのに、空気が俺の家と違って澄んでいる。

 案内されたリビングの中にある家具はすべてピンク色で、まさに女の子の家って感じだ。

 目の前にあるこのローテーブルも、脚の先がくるっと丸まっていて可愛らしい。

「誠道さん。鼻の下が伸びていますよ」

 隣に座るミライに侮蔑の目を向けられる。

「し、仕方ないだろ。女の子の家に入るのなんてはじめてなんだから」

「はじめてじゃないでしょう。誠道さんは私の家に住んでいるじゃないですか」

「勝手に俺の家を奪うな。ミライが俺の家に住んでるんだ」

「一緒の家にいるんですから、女の子の家にはじめて入った、は訂正してください」

「なんでそんなにムキになるんだ」

「ムキになってなどいません。ただ客観的事実を述べたまでです」

「明らかに事実を捻じ曲げようとしてたけどな」

 俺たちが軽く言い争っていると、心菜さんはくすくすと笑いながら、コーヒーの入ったマグカップを持ってきてくれた。

「お二人は息ぴったりで面白いです」

 心菜さんは俺とミライの前にコーヒーを置くが……ミライは人形だ。

 飲食は一応できるが、後の処理が大変なので、普段は飲まず食わずの生活をしている。

「あ、私は結構ですから」

 誤魔化してもしょうがないと思ったのか、きっぱりとお断りするミライ。

「え、コーヒーお嫌いでしたか?」

「いえ、そういうわけでは、その、えっと……」

 困ったように俺を見るミライ。

「まぁ、仕方ねぇよ」

 人間だと思って振る舞えってお願いしているくせに、こうしてミライを人形だって説明しなければいけない場面がくる。

 でもこればっかりは正直に言わないと、逆に心菜さんを傷つけてしまう。

「心菜さん。実は、ミライは」

 俺は、ミライが俺に与えられたサポートアイテムであることを正直に話した。

 心菜さんは俺たちの対面に座って、真剣に聞いてくれた。

「そうだったんですね」

「でも見ての通りミライは俺たちと変わらない。だからその、もしよければ人間としてミライに接してほしい」

「もちろんです。当然ですよ」

 心菜さんはにこりと笑ってミライの手を握る。

「だってミライさんは、笑ったりバカ言ったり嫉妬したりする、普通の女の子ですから」

 嫉妬したりする、の部分で心菜さんはなぜか俺にウインクを飛ばしてきたが、その理由はよくわからない。

 でも、女の子って認めてくれたのはすごく嬉しい。

 心菜さんはすごく優しいんだろうな。

 ミライも、頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。

「ありがとうございます。心菜さん」

「感謝しないでください。普通ですよ」

 謙遜気味に笑う心菜さんを見て心が和む。

 なんだろう、愛すべき妹を見ているかのようだ。

 守りたい、この笑顔。

 具体的には頭をわしゃわしゃ撫でてやりたい。