【立花美央 編】
――2011年9月23日。
残暑厳しく、照りつける太陽の日差しをサングラスで隠すお母さんの姿が印象的だった日。
お母さんとお姉ちゃんと私の三人は、車で大阪から島根へと向かっていた。お母さんは運転、私は助手席で鼻歌を歌い、茜お姉ちゃんは後部座席で外を眺めている。
私は長旅でウトウトとし、高速道路を走る車の中でぐっすりと眠っていた。
お母さんは休憩無く車を運転し、片道4時間余りの道を進んでいく。
「海だぁ!!」
「美央!窓開けたら暑い言うたやん!もうっ!」
「お姉ちゃんも見てみ!海やで!おばあちゃん家はあの辺やろ!」
「見えとるわ!美央!暑い言うてるやろっ!」
「2人共、喧嘩はやめぇ」
「はぁい……」
車は米子道を降り、鳥取県の海岸沿いを走っていく。
そこから境港大橋を渡り島根県へと入る。さらに海岸沿いを走りようやく港町が見えて来た。
「もしもし、お母さん?うん。もうすぐ着くわ。茜と美央?あぁ、2人共元気が有り余っとるよ。うん、そしたら……」
お母さんがおばあちゃんに電話をし、車が目的地の駐車場に辿り着いたのは、お昼を少し過ぎた頃だった。
駐車場に着くとおばあちゃんがすでに出迎えに来てくれている。1年ぶりに会うおばあちゃんは、相変わらず元気そうで笑顔がいっぱいだった。
「よう来たねぇ!美央ちゃん大きいなって!茜ちゃんもおせになって!亜弥、あんたもお疲れさん」
「ばっば!」
「おばあちゃんお久しぶりです」
「お母さん、ただいま。はぁ、疲れたわ」
荷物を車から降ろすと、私はおばあちゃんと手を繋ぎ早く行こうとせかす。
おばあちゃんちに着いてすぐに、お母さんが先にお寺に行って来ると言う。
「ねぇ、茜。先にお寺さんに用事があるんよ、付いて来てくれへん?」
「お母さん。うん、ええよ」
「美央も行くっ!」
「あだん!美央ちゃんは、ばっばと先にお昼ご飯でも食べらか!」
「美央お昼ご飯でも食べるっ!」
「そげかそげか。美味しい《《のやき》》もあぁけんね」
私は食べ物に釣られ、お母さんとお姉ちゃんはお寺さんへと行く準備をする。
おばあちゃんがお母さんに線香と一束の花を渡した。
「お母さん、私が花持つよ」
「茜、ありがとう。ほんなら、お母さん行って来るわ」
「あぁ、気付けてな。美央ちゃんと留守番しちょくけん」
「お母さん、お姉ちゃん、いってら!ねぇ!ばっば!電源貸して!」
私はおばあちゃんがお昼ご飯を用意する間、スマホを充電しながら開く。
お姉ちゃんのお下がりのスマホだ。ネット環境があればインターネットの閲覧は出来る。
「えぇ!うそ!電波入らんやん!?おばあちゃん!WiFiないん?」
「ばいばい?美央ちゃん、もう帰りたいんかぇ?」
「ちゃう!ちゃう!WiFiって言うてね、スマホの――」
スマホが使えない……電波は1本立ってはいるが、場所によっては圏外だ。
「あふぅ……そうや!小説なら――」
「美央ちゃんや。ご飯炊けるまでもう少しかかるけん、ゆっくりしときんさい」
「はぁい!」
私は今、Web小説にハマっている。いつか自分でも書いてみたいと思い勉強中だ。
「繋がった!これなら電波弱くてもしばらく時間が潰せるやん。えぇと、異世界雑魚ぴぃ冒険たんの……ハルト達がエルフの森に行った所まで読んだから……」
私はWeb小説を読みながら昼食が出来るのを待つ。30分程するとご飯の炊ける匂いと焼き魚の良い匂いがし、お腹が急に空き始める。
「お待たせ。美央ちゃん、お昼ご飯出来たけん。そこのお皿を出しちょって」
「はぁい……」
おばあちゃんに言われ、私は小説をキリの良い所まで読みしおりを挟んだ。
丸テーブルにお皿を並べ、冷蔵庫から麦茶を出し、コップにそそぐ。白ご飯に焼き魚、のやきも少しだけ焦げ目がついていて美味しそうだ。
「いただきます!」
「はい、どうぞ」
「ん!うっま!のやきうっま!」
「へっへっへ。そげにまいかいね。えがったえがった」
「この焼きがやば。後でお姉ちゃんにも教えたろ」
「そげだね。晩御飯にものやき用意しちょこかね」
「うんっ!」
昼食を食べ終え、テレビを見ながらゴロゴロしていると眠気が襲ってくる。
「ふぁぁ……」
「美央ちゃんや、これ使い」
「ありがとう……おばあちゃん……」
おばあちゃんが座布団を二つに折り、それを枕代わりにし、タオルケットもかけてくれた。そう言えば外は暑かったのにここは風が抜けて涼しい。エアコンをつけなくても十分だ。
そのままスマホでネットニュースを見ていると、ウトウトといつの間にか寝てしまっていた。
………
……
…
「――あぁ、わかったけん、茜ちゃんには……そげか、それでえぇ。あぁ、美央ちゃんは大丈夫だけん。そいじゃぁねぇ……はぁい」
おばあちゃんが誰かと話してる声で目が覚める。時計を見ると寝入ってから1時間程が経っていた。
「おばあちゃん?どしたん?」
「あだん、美央ちゃんや。起きたかいね?お母さんから今電話があって、茜ちゃんが熱中症になってね。病院で一晩様子をみる事になったけん、今夜はばっばと寝ようかねぇ」
「え?お姉ちゃん大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫、念のために病院でお泊りするだけだけん」
「そかぁ……美央、何かお手伝いすることある?」
「おやおや……そげしたら晩ごはんの用意をしようかねぇ。青井さんとこで、トメェトを買って来てくれんかね」
「はぁい!」
青井さんと言うのは近所の八百屋さんだ。八百屋さんといっても6畳程の土間に木箱を並べ、陳列もされていない昔ながらの販売所だ。
「いってきます!」
「美央ちゃん、気を付けて行くだで」
「はぁい!」
おばあちゃんちを出てすぐの所に青井さんちはある。気を付けても何も、天変地異でも起こらない限り大丈夫だろう。
おばあちゃんちを出て、中道の角を曲がるとすぐに八百屋が見えてくる。
歩きながらふと思い出した。お姉ちゃんにメールを入れておこう。落ち着いたら返事が来るだろう。
『大丈夫?お姉ちゃん?』一言だけ文字を打ち込み、送信ボタンを押す。
「うぅ……また送れんやん。電波も……立ってないやん」
何度か送信ボタンを押しているとようやく送信済になる。ちゃんと送れたかは疑問だったが、自分の中ではこれで満足だった。
スマホをいじりながら歩いているとあっという間に八百屋に着いた。はじめてのおつかいはここで終わりである。
「こんにちは!」
「はぁい!」
八百屋の奥から返事が聞こえ、ドタバタと足音が聞こえる。
「はいはい、お待たせしました。いらっしゃい」
「あの、トマトを2個ください」
「はいよ。おや?あんたは……?」
「あっ!立花美央です」
「あぁ!立花さんとこの!まぁべっぴんのお孫さんだよぉ。それと後ろにいるのがお姉さんかね?」
「え?」
後ろと言われて慌てて振り向く。スマホに夢中になっていて気付かなかった。誰か私の後ろを付いて来たのだろうか。
「にゃ?」
「ね、猫さん?」
振り向いた先には猫が歩いていた。虎柄の茶色い猫だ。人の姿は……見当たらない。ただ、西日が海面に反射し茜色に染まったオレンジ色の光が壁に揺らいで見える。青井さんはこの揺らぎを人影と勘違いしたのかもしれない。
「あだん。勘違いだったみたいだわ。怖がらせてごめんねぇ。見間違いだわ」
「そ、そうですか。良かった……はは……は……」
「はいよ、これトメェト2個ね。100円ね」
「はい、ありがとうございます」
青井さんにお金を渡しお店を後にし、先程の猫を探してみる。
「いないなぁ……猫ちゃぁん!どこ行った?」
猫を探しながら海岸沿いを歩いて行くと、お寺さんが見えて来た。もう少し先まで行こうとした所で町内放送の音楽が聞こえてくる。17時を知らせる放送だ。
それは小学生の時に音楽の授業で習った曲で、つい口ずさんでしまう。
「〽遠き山に陽が落ちて~♪……か。今日は帰ろう」
私は今来た道を引き返し、おばあちゃんちへと鼻歌を歌いながら帰った。
日が暮れた頃、お母さんがお姉ちゃんの着替えと車を取りに帰って来た。言葉少なく、慌てて引き返して行った。メールの返事もまだきていない。お姉ちゃんは大丈夫なのだろうか?
………
……
…
――その日の夜、時計が23時を過ぎた頃。
昼寝をしたせいか、なかなか寝つけず縁側で月をぼんやりと見ていた。おばあちゃんの部屋からは時々いびきが聞こえてくる。ぐっすりと眠っている様だ。
庭に咲く赤い花が月明かりに照らされ、しばらくの間見とれていた。
「綺麗なお花……なんてお花だろう……明日、おばぁちゃんに聞いて――」
『ブブ……ブブ……』
そう思った時、スマホのバイブが鳴った。昼間に送ったメールが届いていたらしく、お姉ちゃんから返信がきたのだ。圏外だったせいか数時間前のメールだった。
『大丈夫や、ありがとう。明日おばあちゃんちに帰ったら一緒にお寺さんにお参りして帰ろうな。それと今日お寺さんで見た花が綺麗やったで――』
そこには赤い花と『彼岸花』と言う文字が書かれていた。
「あっ!庭の花と同じやん!これ彼岸花言うんや!」
ちょうど良いタイミングで思わぬ所から解答をもらえて少し嬉しくなった。そしてお姉ちゃんに返信をしようとスマホを覗き込んだ時、ふいにどこからともなく声が聞こえた。
――2011年9月23日。
残暑厳しく、照りつける太陽の日差しをサングラスで隠すお母さんの姿が印象的だった日。
お母さんとお姉ちゃんと私の三人は、車で大阪から島根へと向かっていた。お母さんは運転、私は助手席で鼻歌を歌い、茜お姉ちゃんは後部座席で外を眺めている。
私は長旅でウトウトとし、高速道路を走る車の中でぐっすりと眠っていた。
お母さんは休憩無く車を運転し、片道4時間余りの道を進んでいく。
「海だぁ!!」
「美央!窓開けたら暑い言うたやん!もうっ!」
「お姉ちゃんも見てみ!海やで!おばあちゃん家はあの辺やろ!」
「見えとるわ!美央!暑い言うてるやろっ!」
「2人共、喧嘩はやめぇ」
「はぁい……」
車は米子道を降り、鳥取県の海岸沿いを走っていく。
そこから境港大橋を渡り島根県へと入る。さらに海岸沿いを走りようやく港町が見えて来た。
「もしもし、お母さん?うん。もうすぐ着くわ。茜と美央?あぁ、2人共元気が有り余っとるよ。うん、そしたら……」
お母さんがおばあちゃんに電話をし、車が目的地の駐車場に辿り着いたのは、お昼を少し過ぎた頃だった。
駐車場に着くとおばあちゃんがすでに出迎えに来てくれている。1年ぶりに会うおばあちゃんは、相変わらず元気そうで笑顔がいっぱいだった。
「よう来たねぇ!美央ちゃん大きいなって!茜ちゃんもおせになって!亜弥、あんたもお疲れさん」
「ばっば!」
「おばあちゃんお久しぶりです」
「お母さん、ただいま。はぁ、疲れたわ」
荷物を車から降ろすと、私はおばあちゃんと手を繋ぎ早く行こうとせかす。
おばあちゃんちに着いてすぐに、お母さんが先にお寺に行って来ると言う。
「ねぇ、茜。先にお寺さんに用事があるんよ、付いて来てくれへん?」
「お母さん。うん、ええよ」
「美央も行くっ!」
「あだん!美央ちゃんは、ばっばと先にお昼ご飯でも食べらか!」
「美央お昼ご飯でも食べるっ!」
「そげかそげか。美味しい《《のやき》》もあぁけんね」
私は食べ物に釣られ、お母さんとお姉ちゃんはお寺さんへと行く準備をする。
おばあちゃんがお母さんに線香と一束の花を渡した。
「お母さん、私が花持つよ」
「茜、ありがとう。ほんなら、お母さん行って来るわ」
「あぁ、気付けてな。美央ちゃんと留守番しちょくけん」
「お母さん、お姉ちゃん、いってら!ねぇ!ばっば!電源貸して!」
私はおばあちゃんがお昼ご飯を用意する間、スマホを充電しながら開く。
お姉ちゃんのお下がりのスマホだ。ネット環境があればインターネットの閲覧は出来る。
「えぇ!うそ!電波入らんやん!?おばあちゃん!WiFiないん?」
「ばいばい?美央ちゃん、もう帰りたいんかぇ?」
「ちゃう!ちゃう!WiFiって言うてね、スマホの――」
スマホが使えない……電波は1本立ってはいるが、場所によっては圏外だ。
「あふぅ……そうや!小説なら――」
「美央ちゃんや。ご飯炊けるまでもう少しかかるけん、ゆっくりしときんさい」
「はぁい!」
私は今、Web小説にハマっている。いつか自分でも書いてみたいと思い勉強中だ。
「繋がった!これなら電波弱くてもしばらく時間が潰せるやん。えぇと、異世界雑魚ぴぃ冒険たんの……ハルト達がエルフの森に行った所まで読んだから……」
私はWeb小説を読みながら昼食が出来るのを待つ。30分程するとご飯の炊ける匂いと焼き魚の良い匂いがし、お腹が急に空き始める。
「お待たせ。美央ちゃん、お昼ご飯出来たけん。そこのお皿を出しちょって」
「はぁい……」
おばあちゃんに言われ、私は小説をキリの良い所まで読みしおりを挟んだ。
丸テーブルにお皿を並べ、冷蔵庫から麦茶を出し、コップにそそぐ。白ご飯に焼き魚、のやきも少しだけ焦げ目がついていて美味しそうだ。
「いただきます!」
「はい、どうぞ」
「ん!うっま!のやきうっま!」
「へっへっへ。そげにまいかいね。えがったえがった」
「この焼きがやば。後でお姉ちゃんにも教えたろ」
「そげだね。晩御飯にものやき用意しちょこかね」
「うんっ!」
昼食を食べ終え、テレビを見ながらゴロゴロしていると眠気が襲ってくる。
「ふぁぁ……」
「美央ちゃんや、これ使い」
「ありがとう……おばあちゃん……」
おばあちゃんが座布団を二つに折り、それを枕代わりにし、タオルケットもかけてくれた。そう言えば外は暑かったのにここは風が抜けて涼しい。エアコンをつけなくても十分だ。
そのままスマホでネットニュースを見ていると、ウトウトといつの間にか寝てしまっていた。
………
……
…
「――あぁ、わかったけん、茜ちゃんには……そげか、それでえぇ。あぁ、美央ちゃんは大丈夫だけん。そいじゃぁねぇ……はぁい」
おばあちゃんが誰かと話してる声で目が覚める。時計を見ると寝入ってから1時間程が経っていた。
「おばあちゃん?どしたん?」
「あだん、美央ちゃんや。起きたかいね?お母さんから今電話があって、茜ちゃんが熱中症になってね。病院で一晩様子をみる事になったけん、今夜はばっばと寝ようかねぇ」
「え?お姉ちゃん大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫、念のために病院でお泊りするだけだけん」
「そかぁ……美央、何かお手伝いすることある?」
「おやおや……そげしたら晩ごはんの用意をしようかねぇ。青井さんとこで、トメェトを買って来てくれんかね」
「はぁい!」
青井さんと言うのは近所の八百屋さんだ。八百屋さんといっても6畳程の土間に木箱を並べ、陳列もされていない昔ながらの販売所だ。
「いってきます!」
「美央ちゃん、気を付けて行くだで」
「はぁい!」
おばあちゃんちを出てすぐの所に青井さんちはある。気を付けても何も、天変地異でも起こらない限り大丈夫だろう。
おばあちゃんちを出て、中道の角を曲がるとすぐに八百屋が見えてくる。
歩きながらふと思い出した。お姉ちゃんにメールを入れておこう。落ち着いたら返事が来るだろう。
『大丈夫?お姉ちゃん?』一言だけ文字を打ち込み、送信ボタンを押す。
「うぅ……また送れんやん。電波も……立ってないやん」
何度か送信ボタンを押しているとようやく送信済になる。ちゃんと送れたかは疑問だったが、自分の中ではこれで満足だった。
スマホをいじりながら歩いているとあっという間に八百屋に着いた。はじめてのおつかいはここで終わりである。
「こんにちは!」
「はぁい!」
八百屋の奥から返事が聞こえ、ドタバタと足音が聞こえる。
「はいはい、お待たせしました。いらっしゃい」
「あの、トマトを2個ください」
「はいよ。おや?あんたは……?」
「あっ!立花美央です」
「あぁ!立花さんとこの!まぁべっぴんのお孫さんだよぉ。それと後ろにいるのがお姉さんかね?」
「え?」
後ろと言われて慌てて振り向く。スマホに夢中になっていて気付かなかった。誰か私の後ろを付いて来たのだろうか。
「にゃ?」
「ね、猫さん?」
振り向いた先には猫が歩いていた。虎柄の茶色い猫だ。人の姿は……見当たらない。ただ、西日が海面に反射し茜色に染まったオレンジ色の光が壁に揺らいで見える。青井さんはこの揺らぎを人影と勘違いしたのかもしれない。
「あだん。勘違いだったみたいだわ。怖がらせてごめんねぇ。見間違いだわ」
「そ、そうですか。良かった……はは……は……」
「はいよ、これトメェト2個ね。100円ね」
「はい、ありがとうございます」
青井さんにお金を渡しお店を後にし、先程の猫を探してみる。
「いないなぁ……猫ちゃぁん!どこ行った?」
猫を探しながら海岸沿いを歩いて行くと、お寺さんが見えて来た。もう少し先まで行こうとした所で町内放送の音楽が聞こえてくる。17時を知らせる放送だ。
それは小学生の時に音楽の授業で習った曲で、つい口ずさんでしまう。
「〽遠き山に陽が落ちて~♪……か。今日は帰ろう」
私は今来た道を引き返し、おばあちゃんちへと鼻歌を歌いながら帰った。
日が暮れた頃、お母さんがお姉ちゃんの着替えと車を取りに帰って来た。言葉少なく、慌てて引き返して行った。メールの返事もまだきていない。お姉ちゃんは大丈夫なのだろうか?
………
……
…
――その日の夜、時計が23時を過ぎた頃。
昼寝をしたせいか、なかなか寝つけず縁側で月をぼんやりと見ていた。おばあちゃんの部屋からは時々いびきが聞こえてくる。ぐっすりと眠っている様だ。
庭に咲く赤い花が月明かりに照らされ、しばらくの間見とれていた。
「綺麗なお花……なんてお花だろう……明日、おばぁちゃんに聞いて――」
『ブブ……ブブ……』
そう思った時、スマホのバイブが鳴った。昼間に送ったメールが届いていたらしく、お姉ちゃんから返信がきたのだ。圏外だったせいか数時間前のメールだった。
『大丈夫や、ありがとう。明日おばあちゃんちに帰ったら一緒にお寺さんにお参りして帰ろうな。それと今日お寺さんで見た花が綺麗やったで――』
そこには赤い花と『彼岸花』と言う文字が書かれていた。
「あっ!庭の花と同じやん!これ彼岸花言うんや!」
ちょうど良いタイミングで思わぬ所から解答をもらえて少し嬉しくなった。そしてお姉ちゃんに返信をしようとスマホを覗き込んだ時、ふいにどこからともなく声が聞こえた。