ダイニングキッチン横の扉を開ければ、シャワールーム。キッチンの奥の、外に繋がってそうな扉を開ければ、庭と言う名の枯れ果てた大地が目に入った。
井戸もあるようだが、こんな土地で、出るんだろうか。庭に出て覗き込んで見ても、底は見えない。
いつのまにかメルリアは、大きなタライを見つけて来たようで俺の横にズルズルと引っ張って来ていた。
「私、お布団洗いますね! 今日中に乾かなければ、寝袋で寝ましょう」
「あぁそうだな」
井戸を動かしてみても、出る気配はない。であれば、魔法を使ってしまう方が早いだろう。魔法を使おうとすれば、メルリアの手が俺の手を止めた。
「魔法、使えるんですか?」
心配そうな顔で、俺を見つめてる。そういえば、使えるかどうかも試してなかった。顎に手を当てて、生えはじめの髭を撫で付ける。
「試してなかったな」
「サーチとか、消費が少ないものからにしましょうよ」
わからないから、メルリアの言う通り、サーチ魔法を使う。せっかくなら、役に立つものがいい。水、水源を探そう。
体の中心から、魔力を練る。魔力を手に移動させて、念じればするりと、魔法は発動して淡い光を枯れた大地の上で照らした。
「サーチは、大丈夫そうですね」
メルリアは安心したように、胸を撫で下ろす。俺は、違和感に首を傾げた。身体中が熱い。今までの魔力どころじゃないみたいな。
「魔力が、いつもより増えてるような……」
「えっ?」
「ちょっと、水源掘るから、下がっててくれ」
今なら、なんでもできそうな気がする。身体は老いてるはずなのに。掘るなら、土の操作が良いだろうが、それよりも、もっと大きい魔法を使ってみたい。
ワクワクとする胸を止められず、創作魔法を発動する。ほとんど使用して来なかったが、俺の転生特典というものだ。あまり、使い勝手のいい魔法じゃなかったから、封印していた。魔力効率が著しく悪い過ぎて、実戦じゃ役に立たない。
シャベルを十個ほど想像して、作り出す。そして、勝手に掘ってくれるように念じれば、シャベルが地面に突き立てられた。
「な、んですかそれ」
驚いた顔のメルリアを放っておけば、どんどん深く地面が抉れていく。カンっと硬い音がしたかと思えば、ぷしゅうっと水が勢いよく吹き出した。
防ぐ暇もなく、俺とメルリアはびしゃびしゃに濡れていく。そこら中に撒き散らかされた水。硬い地面に吸収され、黒い色を落としている。
「あったかい……?」
「温泉、じゃないか!」
最高だ!
俺はなんて、ツイてるんだ。スローライフと言えば、入り放題の温泉! それが勝手に湧き出るなんて!
テンションが上がって、出て来た水源に走り寄ってしまった。思ったよりも軽い身体に、老化の呪いを疑いたくなる。全員があれだけ、神妙な顔をしていたからドッキリってことはないだろうけど。メルリアに至っては、介護するとついて来たくらいだし。
温泉に触れれば程よいあたたかさで、整えればそのまま浸かれるぞ、これ。本当にラッキーだな。
今なら俺、建物とかも創造魔法で建てれるんじゃ……魔力が足りなくて、できなかったゴーレムもできるんじゃないか?
しゃがみ込んで地面に触れれば、程よい硬さだ。作物を植えるには、カチカチだが、ゴーレムを作るには良いぞ。
念じれば、小さいゴーレムが三体ほどポコンッと産まれる。俺の方にビッと敬礼してから、湧き出てる温泉の周りに岩を積み始めた。温泉はゴーレムに任せるとして、生活用水をどうするか、だ。
もう一度、「生活に使える水」と指定してサーチを起動すれば、井戸の上で光がフラフラと揺れている。先ほどは、出て来なかったのに? 疑問に思いながらも、井戸を動かせば、ギイという音と共に、水が上がってくる。
温泉が沸いたことで、近くの止まっていた水脈が動き始めたんだろうか。まぁどっちだって良い。これで、掃除も、洗濯も始められる。メルリアに洗濯を頼もうと近づけば、目の前の温泉を見上げたままぽかんと固まっていた。
「メルリア?」
「ルパートさんって、一体……」
「どうした?」
俺の声にパッと顔を上げて、俺の肩を掴む。ブンブンと揺さぶりながら、メルリアはぱちぱちと瞬きを繰り返しながら問い詰めて来た。
「今までそんな素ぶりなかったですよね!?」
想像魔法や、ゴーレムだろうか。まぁ普通は、使えない。俺だってこの現状がわからない。だから、説明はできない。
「わからない」
「老化の呪いの影響ってことですか……? 意味わかんない」
「まぁ、いいじゃないか。水だって出るようになったし」
「あ、洗濯! しなきゃ!」
俺の肩からパッと手を離して、大きなタライに水を張り始める。俺も部屋の掃除でもしよう、と持ち運び用のバケツを広げて水を溜めた。適当なハギレはたくさん持って来たし、必要なものはあるだろう。
前世で使ってた、ホコリを絡めとるようなモップがあれば一番楽だけど……いや、創造魔法でわんちゃん、いけるんじゃ? ハギレを手に試しに想像してみれば、ポンポンのように布が裂かれたモップのようなものが出来上がった。
うん、そう、万能では、ないよな。