馬車に揺られてたどり着いたのは、枯れ果てた土地だった。土は見るからにガチガチに固まっている。岩は転がっているし、植物は、見当たらない。でも、家は、古いなりにキレイに管理されていたのがわかった。

 赤いレンガで組まれた、立派な一軒家。前世では手に入れられなかった、マイホーム!

 老化の呪いをあっさりと受け入れられたのは、前世の記憶があるからかもしれない。一度死んだ人生だ。今がすでに、ロスタイム。あるだけ、マシというものだろう。

 まずは、掃除からと家に入ろうとすれば、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこにはメルリア。大きな荷物を肩に背負って、俺に走り寄ってくる。

「ルパートさん! 私は、ルパートさんがいたから、あのパーティーにいたんです。メイドでも、なんでもいいので、置いてください!」

 置いてください、と言われても……とは思ったが、こんな辺鄙な土地に、着いてきてしまったからには仕方がない。それに、ここにいると言うことはもうパーティーを抜けてしまってるだろう。
 突き返すのも、忍びない。

「何もないぞ」
「ルパートさんがいます!」
「俺はこれから、スローライフをするんだ。冒険はしないし、食べる程度の狩りしかしないが……」
「かまいません!」

 うるうると目を潤ませられると、強くは言えない。仕方なく頷けば、ぴょんっと飛び跳ねて、重たい荷物を持ったまま俺に飛びつく。

「ありがとうございます! 死ぬまで介護しますからね!」

 そこまでメルリアに懐かれることをした記憶もない。まぁでも本人がこう言ってるんだから、いいだろう。二人で並んで家に入れば、少し埃っぽいが家具まで揃ってる。

 玄関からすぐにダイニングキッチン。すぐそばには、二階に繋がる階段もある。ざっと見るだけでも、二階には四部屋ほどあるようだ。

 そういえば、ギルド職員が言っていた。「老人が住んでたみたいですが、家族と暮らすために引っ越して行ったので……」と。キッチンも、リビングもそのまま使えそうだ。

 昔は、家族でここに住んでいたのかもしれない。メルリアが住んでも、まだまだ部屋数が余るくらいだ。

「メルリアはどこにする?」
「ルパートさんのお隣で!」

 迷いなく、俺を見つめて答えるから、少し苦笑いになってしまった。階段すぐ近くで良いだろう。階段を登れば、軋む音すらしない。廊下の窓をとりあえず開けて、換気すれば新鮮な空気が家中に広がっていく。

 目の前に広がる壮大な枯れ果てた大地と、少し下った先に見える農村。俺が憧れていたスローライフの、世界だ。左に視線を移せば、山も、湖も見える。あそこの山が鉱山だったら、鉱山ライフも楽しめるだろう。最高だ。

 じーんっと噛み締めていれば、メルリアが個室の扉を開ける。ベッド、机、クローゼットと、必要最低限は揃っていそうだった。

「ルパートさんは、ここにしますか?」
「そうしよう」
「じゃあ、私は隣のお部屋で! まずはお洗濯とお掃除からですねぇ」

 ほこりを見つめて、メルリアがくしゅんっとくしゃみをする。早急に掃除する必要が、ありそうだ。俺も頷いて、荷物を床に置く。

 布団も洗う必要が、ありそうだ。寝袋もテントもあるから、今日中じゃなくても良いかもしれないが。メルリアは布団をまくって、またくしゅんっと小さいくしゃみをしていた。

 一番はほこりを追い出すことから、だな。

 部屋の窓も開け放って、空気を換気してから、一階に戻る。