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 ターコイズの小屋もできて、雨風も凌げるようになった。ターコイズとタヌキは、お互い遊び合う相手くらいにはなったらしい。

 回復薬を作れるというタヌキの言葉も本当だったようで、上級回復薬をいとも簡単に作っていた。メルリアが「ルパートさんの呪いが解けるかも!」と期待して、頼んでいた。まぁ、飲んでみたけど、体の変化は分からなかったけど。

 そもそも、老化の呪いをまだ感じられていない。鏡を見る限り、年をとった感じはしていないし。ただ、魔力がかなり増えた実感だけだ。

 メルリアは、俺の呪いを解きたいらしく、暇さえあれば文献を漁ってくれている。俺はスローライフさえできれば、満足なんだけどな。


 今日は新しい果物の種が入ったと、ナリスが家に訪ねて来ている。

「ぶどうと、桃の種です! それにしても、立派な果樹と野菜ですねぇ」

 果樹が実ってることに、疑問は抱かないらしい。やっぱり異世界産はみんなこうなんじゃ……とメルリアの顔を見れば、首を横に振る。
 単純にナリスがなんでも受け入れる派なだけらしい。

「なぁ、ナリス」
「はい?」
「鉱山、知らないか?」

 あとは、スローライフといえば、鉱山なんだよな。

 あの山が鉱山だったら、バッチリなんだが。ナリスは、大きく頷いて、山を指さす。

「あそこ、昔は採掘してたみたいですよ」
「マジで?」
「はい」

 よっしゃあああと気づけば、腕を上げていた。温泉、野菜、魚釣り、家畜ときたら、あとは鉱山! 完璧なスローライフの遂行に、つい胸が躍る。メルリアは、ふうっとため息を吐いてから、手をグーパーグーパーとした。

「私もついていきます、さすがに危なさそうなので」
「あ、じゃあ、私も! 役に立てると思うんで」
「ナリスも、か?」
「私これでもドワーフなんで、扱いには慣れてますよ」

 そういえば、村唯一の鍛冶屋と、言われていたなと思い出す。助かる、と思いながらハンマーを創造魔法で出した。

「なんで、ハンマー?」
「え、鉱山は、ハンマーだろ?」
「ピッケルとか、ですね」

 ナリスの口が少し、ヒクヒクとしてる。ちょっと、世間知らずだったようだ。ピッケルの絵を描いてもらいながら、創造魔法で出してみせれば、大きく頷いてくれた。

「便利ですねぇ、ルパートさんの魔法」
「でも、ナリスは自分で作れるんだろ。武器も、こういう道具も」
「作ればしますけど、武器は作りませんよ。人を傷つけたくないので」

 キッパリと言い張るナリスに、つい「しっかりてるなぁ」と口にしてしまった。

「変とか言われるんですけどね。せっかくの鍛冶師がって。武器の方が、まぁ売れるので」
「そんなの、自由だろ。ナリスの信念なんだろ、傷つけるものは作らない」

 ナリスは、一瞬、息を飲み込んでから、嬉しそうに微笑む。メルリアがその後ろで、何が言いたそうに口を動かしていた。そして、俺とナリスの間に割って入ってから、「行きましょう!」と俺の腕を引いていく。



 鉱山の入り口には、「立ち入り禁止」と書かれた看板が。せっかく来たのに、と思えば、管理してる人なのか、村人が現れた。

「これって」
「中でドラゴンが暴れているから、出ていくまで入らないようにしようって書き置きを残してるんだ」

 ドラゴン、か。リースたちと一緒に退治したな。メルリアも同じことを考えていたらしく、目が合う。今の魔法なら、勝てる気もしてくるが……ナリスを連れていくのは危険かもしれない。

 悩んでいれば、メルリアがそっと俺の右手を握る。

「私たちで退治しましょう。出て来て暴れられても怖いでしょうし。それに、ドラゴンの肝が私欲しいです!」

 メルリアが、何かを欲しがるのは初めてだった。できることなら支えてくれるメルリアの願いは、叶えてやりたい。

「そうだな、ナリスはとりあえずここで待っていてくれ」

 ナリスの方を振り向けば、「わかりました」と頷いて座り込む。村人は「そりゃあ無茶だ」と口にしてるが、討伐経験があるし、リースが居なくても今なら倒せる自信があるとは言えなかった。

 説明が難しい。魔力は、他の人には見えないものだし。それでも、ナリスが何か説得してくれたらしい。村人の耳元でごにょごにょと何かを言った瞬間、「頼みます」と顔色を変えて、拝まれた。