「ありのままの君が素敵だと私は思うよ」        
                        
 水園小夜はきっとこの言葉を一生、忘れることはない。                   
                        
 こんなにも優しくされたのはいつぶりだろう。
                         
 丁寧に記憶を辿っても思い出すことはない。
                        
 鮮明に残っているのは、憎ましそうに見つめる家族の視線と降りかかる罵倒だけ。        
                        
 「お前がそんなふうになったのは、俺たちのせいではない。恨むなら自分を恨め」         
                        
 脳内でこだまするのは、父の冷たく鋭い声色。  
                        
 今さら言われずとも、何度も嘆き、恨んで、諦めた。                     
                        
 一族の落ちこぼれだと、恥だと、どれだけ蔑まれようとも、この運命は変えられないと。     
                        
 これから訪れるどんな不条理にも従いながら、閉ざされた世界で生き続けていく、そう覚悟していたのに。                   
                        
 「君となら良い夫婦になれると思うんだ」                                                                                     
                        
 黒く染まった心を照らすような彼の花笑み、それが一欠片の希望に見えて、小夜は泣きたくなった。