「はい、じゃあ期末テスト返して行きまーす。名前順に取りに来てくださーい。はい、青木くーん」
 生徒たちはガタガタと席を立ち、教卓の前に列をなしている。1人ずつ解答用紙を返却され、落胆したり周りに自慢したりしながら席へ戻っていく。

「はい、戸田くーん」
 裏返しに渡された紙をとりあえず受け取り、歩きながら表に返す。

 77

 白い紙に書かれた赤いぞろ目が目に入る。想像していたより良くない。
(せっかく奏太に教えてもらったから、90くらい取って驚かせたかったな。せめて80は超えたかった……)
 静かにため息をついていると、とんとんと肩を叩かれた。いたずらっぽく笑う奏太が、朔斗の手元を覗きこむ。
「なぁ、どうだった?」
「え……と、77……」
 点数を聞いた瞬間、奏太の顔がさらに明るくなった。
「えぇっ! 俺も!」
 目の前に解答用紙をピッと広げられる。
「わ、ほんとだ。一緒だ」
「やっぱ俺ら、相性ばっちりじゃん!」
 勢いよく差し出された手を、反射的に握り返す。
「うわっ」
 手を引っ張られた拍子につんのめり、頭同士が鈍い音をたてた。
「痛って! (わり)ぃ、大丈夫か?」

 目の前に飛び散る火花の先に、いつもの笑顔を見た。
 まっすぐにこちらを見つめる視線。目尻に寄せられた笑い皺。いたずらっぽく上がった口角。
 いつもと同じなのに、いつもより眩く見えた。
(あ、きれいだ……)
 痛みに耐えながら、ふとそんなことを考える。

「…………」
「おい、変なとこぶつけたか? 大丈夫か?」
「……ああ、うん。大丈夫」
「急に黙るなよ、びっくりするだろ」
「ごめんごめん──」
「はーい、そこ。早く席に戻って。後ろ詰まってる」
 教師の声に、後ろを振り返る。数人の生徒が、返された解答用紙に目を落としたまま通路に立ち往生している。
「おっと、悪ぃな!」
 肩をすくめてさっさと座ってしまった奏太の背中を見つめ、あの眩しさの意味を考えあぐねていた。