高校1年、春。
中学校で仲が良かったやつらとは別の高校に進むことになったせいで、新しい環境への高揚感と不安が仲良く手を組んで、心臓を妙に浮かせていた。
まだ慣れない椅子に座り、まだ慣れない教室を眺めている。同じ中学校出身でかたまっているグループに入ることも、なんとか友人を作ろうとおどおど会話している人たちに混じることもできず、頬杖をついて何かを考えているふりをする。
(まずい、ぼっち確定か……? まぁまだ始まったばっかだし、これからそれなりに仲良くなるだろ)
(一匹狼ってのも、悪くないかも?)
(でも悪目立ちして浮くのは嫌だから気をつけなきゃ)
友達のいない休み時間はやたらと長く、頭の中の自分と話すほかなかった。
「ねぇ、戸田くんって、下の名前なんて言うんだっけ?」
声をかけられて隣の席を見ると、こげ茶色でややくせっ毛の髪をした生徒が、くりっとした丸い目でまっすぐにこちらを見つめていた。
「え……っと、戸田、朔斗です……」
「へぇ、朔斗って読んでもいい?」
「うん……」
(人と距離を縮めるのに迷いがないんだな)
人懐っこく笑う隣の彼は、朔斗の情報を引き出すのに忙しそうだ。
「どこ中だった?」
「丘三中……」
「近いな! 俺、丘一中だった! どこかですれ違ってたかもな、俺たち! あははっ」
「はぁ……」
(初対面でこのテンション……ついていけない)
こちらの反応が薄いことなど気にも留めず、質問は続く。
「あっ、部活ってどこにするか決めた?」
「……バスケ部かな」
「え! バスケやるんだ! 意外!」
心底驚いたような表情にムッとする。
(やってちゃ悪いかよ)
「うん、中学でもやってたし……」
彼の顔がぱっと変わった。
「あっそうなんだ! ごめんごめん! 朔斗って静かな人っぽい印象だったからさ、文化部かと思ったんだよ。ごめんごめん」
申し訳ないという文字が両頬に書いてありそうな顔をして彼は謝ってきた。
(ごめんって何回言った? 俺そんなに顔に出てたか?)
急に謝られると、自分が悪いことをしたような気になる。
「え……っと、そっち……君は?」
「え?」
「君は、何の部活入るの?」
「俺? ほんとは帰宅部がよかったけど、この高校って部活必須じゃん? 新聞部がラクだって噂聞いて、じゃあ入っちゃおうかなって感じ」
(噂話を聞けるくらい、友達いるんだな)
「へー、そっか。まぁ後から変更もできるらしいしね」
「うん、そう。っていうか、俺のことも名前で呼んでよ! 君とか言われたらさみしいじゃん!」
「いや、まだ名前覚えられてなくて、ごめん……」
「あっそっか、俺も朔斗の名前覚えてなかったわ、ごめんごめん。俺、早川奏太。奏太って呼んでよ」
「う、うん、分かった……」
「よし、おっけー! 次の授業も頑張ろうな!」
「う、うん……」
授業開始のチャイムが鳴る。休み時間はいつのまにか終わっていた。
(ちょっと距離感近いけど、まぁいいやつそうだな)
朔斗は、机の中から教科書を引っ張り出す奏太を見ながら、話しかける相手が1人できたことに安堵を覚えていた。
中学校で仲が良かったやつらとは別の高校に進むことになったせいで、新しい環境への高揚感と不安が仲良く手を組んで、心臓を妙に浮かせていた。
まだ慣れない椅子に座り、まだ慣れない教室を眺めている。同じ中学校出身でかたまっているグループに入ることも、なんとか友人を作ろうとおどおど会話している人たちに混じることもできず、頬杖をついて何かを考えているふりをする。
(まずい、ぼっち確定か……? まぁまだ始まったばっかだし、これからそれなりに仲良くなるだろ)
(一匹狼ってのも、悪くないかも?)
(でも悪目立ちして浮くのは嫌だから気をつけなきゃ)
友達のいない休み時間はやたらと長く、頭の中の自分と話すほかなかった。
「ねぇ、戸田くんって、下の名前なんて言うんだっけ?」
声をかけられて隣の席を見ると、こげ茶色でややくせっ毛の髪をした生徒が、くりっとした丸い目でまっすぐにこちらを見つめていた。
「え……っと、戸田、朔斗です……」
「へぇ、朔斗って読んでもいい?」
「うん……」
(人と距離を縮めるのに迷いがないんだな)
人懐っこく笑う隣の彼は、朔斗の情報を引き出すのに忙しそうだ。
「どこ中だった?」
「丘三中……」
「近いな! 俺、丘一中だった! どこかですれ違ってたかもな、俺たち! あははっ」
「はぁ……」
(初対面でこのテンション……ついていけない)
こちらの反応が薄いことなど気にも留めず、質問は続く。
「あっ、部活ってどこにするか決めた?」
「……バスケ部かな」
「え! バスケやるんだ! 意外!」
心底驚いたような表情にムッとする。
(やってちゃ悪いかよ)
「うん、中学でもやってたし……」
彼の顔がぱっと変わった。
「あっそうなんだ! ごめんごめん! 朔斗って静かな人っぽい印象だったからさ、文化部かと思ったんだよ。ごめんごめん」
申し訳ないという文字が両頬に書いてありそうな顔をして彼は謝ってきた。
(ごめんって何回言った? 俺そんなに顔に出てたか?)
急に謝られると、自分が悪いことをしたような気になる。
「え……っと、そっち……君は?」
「え?」
「君は、何の部活入るの?」
「俺? ほんとは帰宅部がよかったけど、この高校って部活必須じゃん? 新聞部がラクだって噂聞いて、じゃあ入っちゃおうかなって感じ」
(噂話を聞けるくらい、友達いるんだな)
「へー、そっか。まぁ後から変更もできるらしいしね」
「うん、そう。っていうか、俺のことも名前で呼んでよ! 君とか言われたらさみしいじゃん!」
「いや、まだ名前覚えられてなくて、ごめん……」
「あっそっか、俺も朔斗の名前覚えてなかったわ、ごめんごめん。俺、早川奏太。奏太って呼んでよ」
「う、うん、分かった……」
「よし、おっけー! 次の授業も頑張ろうな!」
「う、うん……」
授業開始のチャイムが鳴る。休み時間はいつのまにか終わっていた。
(ちょっと距離感近いけど、まぁいいやつそうだな)
朔斗は、机の中から教科書を引っ張り出す奏太を見ながら、話しかける相手が1人できたことに安堵を覚えていた。