197~198日 後編 「朔は私のもの、そうでしょ?」



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唯鈴side




それは朝からだった。




あまり気分が良くないわ……今日は体育祭のリハーサルなのに……




頭痛もあるけど、気持ち悪さの方が大きく私の体を蝕んでいる。




二度とない体育祭……団もせっかく朔たちと一緒なのだから、勝たないと……!




まだ本番では無いのに、無理をしてそう意気込んだ。




大丈夫、大丈夫……




大丈夫だと、信じたかった。




それでも、玉入れ、そして借り物競争で真琴と一緒に走ってしまえば、体調が悪化することは目に見えていた。




実際に体調が悪くなり、顔を洗いに行くと朔に嘘をついて、ここから1番近い体育館入口にあるトイレへ行こうとした時。




「ねぇ遠永さん、ちょっといい?」




そう言って、3人のクラスメイトに声をかけられた。




倉本さんと……あと2人の名前は思い出せないわ。




「何かしら?」




「単刀直入に聞くんだけど、遠永さんって杉野くんたちとどういう関係なの?」




「え、朔……?」




「名前で呼ばないで!」




怒られてしまったわ。




ああ、頭が痛い……でも、倉本さんたちの話をちゃんと聞かないと。




「え、ええと……杉野くんとは、友達よ」




「じゃあ出雲くんとは?」




真琴も……?




「出雲くんとも友達よ」




「嘘つかないで!周りの子みんな思ってる。遠永さんはあの2人を独り占めしてるって。私だって、杉野くんのこと、好きなのに……」




「え………」




そう、だったのね。




知らなかったわ。




でも、そういうことならやっぱり譲れない。




「さっき、朔とは友達と言ったわ……でも本当は、私も朔のことが好きよ。愛してる。ずっと、ずっと前から……」




「やっぱりそうなんじゃない。なら出雲くんとはもう話さないで。杉野くんとも距離置いてくれたら、こんなことしないけど」




こんなこと……やっぱり、これはいいことをされているわけではないのね。




このまま朔といたら、またこんなことが起こってしまう。




でも、なら尚更、そんなことをする人たちのせいで私の生き方を変えられるわけにはいかないわ。




「それは出来ないわ」




「はあ?何様のつもりなの!?」




高い声が頭に響く……




気持ち悪い……




「私は、朔と……」




「な、なによあんた、ちゃんと立って……」




「ずっと、一緒に……うっ」




「きゃああああ!」




口の中に鉄の味が広がる。




ああ……倉本さんたちを驚かせてしまったわ、ごめんなさい……




歩けそうにないし、どうしようかと思っていると、どこからか愛しい人の声が聞こえてくる。




朔……真琴の声もするわ。




朔……来てくれたのね、でも、ごめんなさい……こんな姿を見せてしまって……




心の中で謝りながら、意識を保つことに集中する。




朔に情けないところは見せたくなかったのに……




苦しさのあまり、弱音を吐いてしまった。




「くる、しい……助けて……っ」




でもそんな私のことを助けようとしてくれるあなたがいることに、安心してしまう。




ごめんなさい、朔……次あなたと話せるのは、少し後になりそうだわ……




そう謝って、私は意識を手放した。




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「…………」




目を覚ますと、白い天井が見えた。




ここは………ああ、来てしまったのね、病院に……




色々な人に迷惑をかけてしまったことに、改めて自分の無力さを知る。




私が望んでしたことじゃない……今更後悔するなんて、ダメね、私。




朔がこの世界に生きてくれているのだから、それで満足しなさい、私。




あと半年もないのに……今更“もう一度”を望むなんて。




私って、欲張りなのね。




慣れない空気を吸って、吐いて……そうしていると、病室のドアが開く音がした。




「朔」




「い、すず………っ」




花束を持って入ってきたのは、朔だった。




朔はその場に泣き崩れる。




「朔、大丈夫?朔、朔」




朔はしばらく泣き続けた。




そして……




「落ち着いた?」




「ああ、だいぶ……」




私も大丈夫だと、体を起こそうとした時。




「ちょっ、バカなにやってんだよ!休んでろって……」




朔……結構な衝撃を受けたみたいね。




「朔、私今とっても幸せなの。朔がこうやって泣いてくれて、手を握ってくれて、そばに居てくれて……ありがとう、朔」




元気づけようと言ったのに、朔は辛そうな顔をした。




「俺に、そんなこと言ってもらえる資格は……」




「どうして?」




「だって、倉本たちが唯鈴に当たったのは、俺のせいだから……」




「違うわよ。ただ倉本さんは朔のことを好きになっただけよ。恋をしたの。学生にとって恋は……青春?なのでしょう?そんな大切なものを逃したら悲しいじゃない。それと私、倉本さんに朔をとられるつもりなんて微塵もないわ。朔は私のもの、そうでしょ?」




「っ~~……そーかもな」




「!」




否定されると思っていたのに……少しくらい、期待してもいいのかしら。




でも……“その時”になって、辛くなるのは私ね。




嬉しさを表に出さないように、事情を話す。




「それに、朝から体調が良くなかったの。隠していてごめんなさい」




「もう隠すなんてことはせずに、正直に言ってくれ……絶対、約束。分かったな?」




「ええ、心得ておくわ」




「それで、唯鈴……唯鈴の体調不良の原因なんだが……」




朔は言うのを躊躇っている。




ああ、聞いてしまったのね。




「原因不明、と言われたんでしょう?」




「!なんで……」




なんで……ね。




今はまだ話せないわ。




「秘密よ」




「秘密って……俺には、話せないのか?俺が信用に足る人間じゃないから、唯鈴をこんな目に遭わせたから……」




何を言っているの?




「そんなはずないでしょ?さっきも言ったけれど、私が倒れたのは朔のせいではないわ。それに私、こんなに苦しくても、今とっても幸せなの」




「なんでだよ?」




「この苦しみのおかげで、あなたの傍にいれるから。どういうことなのかは、まだ言えないわ。でも絶対に話すわ、約束する。だから、待っていて欲しいの」




そう言うと、朔は渋々納得してくれた。




「……分かった」




そして、私は気にっていた事を朔に尋ねる。




「ねぇ朔、私、体育祭は……」




「出られると思うか?」




「……いいえ」




「だよな。ってことでお前は見学。でも応援は出来るんだから、昴たちの応援しっかりやってやれ」




「!ええ、そうするわ」




翌日、唯鈴のために、と意気込んだ昴や明那、真琴たちによって赤団が見事優勝した、というのはまた別のお話。