88日 「誕生日パーティ」



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唯鈴side




今日は6月27日。




つまり、文化祭最終日の2日後の日曜日。




私と朔は今、昴の家へ向かっている。




なぜなら、今日は昴の誕生日?らしいから。




誕生日とは何かしら……と気になりながら足を進めている。




家を出て10分ほど歩いたら、朔が




「着いたぞ」




と声をかけてくれた。




2人の家は近いのね。




昴の家は白を基本としていて、とても明るい。




それに対して、朔の家は黒がメイン。




色々な家があるのね、と周りの家を見渡していると、中から明那が出てきた。




「やっほ~唯鈴!朔!」




「明那?どうして明那がいるの?」




私が尋ねると、朔が驚いた顔をして。




「あれ、言ってなかったか?明那と真琴も誕生日パーティ来るぞ」




「そうなのね」




「さっそくでごめんなんだけど、今リビング飾り付けてるから、2人とも手伝って!」




「ああ」




そしてリビングへ向かうと、そこには昴と真琴の姿が。




「よお2人とも!今日は俺のために……」




「昴うるさい。2人ともこんにちは。お昼からパーティだから、それまで準備手伝ってくれないかな」




「ええ、分かったわ」




友達の家へ行くのも、誕生日パーティをするのも初めてで、朝から私はドキドキしっぱなし。




準備?のようだから、まだこれから何かあるのよね。




楽しみだわ。




そう思いながら風船を膨らませたりテーブルクロスを敷いていると、あっという間にお昼がやってきた。




テーブルにはたくさんの食べ物が並んでいる。




見たことのない料理だけれど、どれも美味しそうだわ……




そんなことを考えていると、明那が




「じゃっ、昴~?」




と掛け声を。




何かしら……?




様子を伺っていると、私と昴以外の3人が、昴に




「お誕生日おめでとう~!」




と元気な声で伝えた。




私が戸惑っていると、それを置いていくかのように明那が昴に誕生日プレゼントを渡したいと口を開いた。




「まだ早くね?嬉しいけど!」




「文句言わないの、はいっ、昴!」




「ありがとう明那」




そう言う昴の顔はほんのり赤かった。




もしかして昴は、明那のことが好きなのかしら?




昴は可愛くデコレーションされた袋から中身を取り出し、おおー!と声を上げた。




「ネックレス!?えっ、めっちゃオシャレ!今着けてぇんだけどいい!?」




昴はとてもいい反応を見せて、ネックレスを大切そうに持っている。




昴の声に、明那は嬉しそうにネックレスを着ける昴の姿を見つめている。




誕生日プレゼントに、誕生日パーティ……




推測するに、何かお祝いをするものなのね。




ネックレスを着けた自分の姿を、昴はスマホのカメラで確認している。




そして明那にたくさんお礼を言ったあと、朔と真琴に尋ねる。




「じゃ、2人は!?」




「無いけど」




「ごめん、用意してない」




「なんでだよ2人とも~!去年はくれたじゃん!」




「うるせ」




誕生日プレゼントを用意していなかった2人に、不満が絶えない様子の昴。




そんな昴を明那がなだめている。




そこで、私は思った。




「昴、ごめんなさい。私も誕生日プレゼント用意出来てなくて。でも私、初めて出来た友達に誕生日プレゼント渡してみたいの。だから今から行ってきてもいいかしら?」




「え!?嬉しいけど、今から?」




「なるべく早く渡したくて……すぐに昴にピッタリのものを選んで帰ってくるわ!だから……」




そんな私に、昴は優しく微笑んで言ってくれた。




「じゃ、待ってるから。気をつけてな!」




「ありがとう、昴。それと、朔と真琴も行きましょう?」




「嫌だね」




「んー……俺は行こうかな」




「なっ……やっぱ俺も行く」




朔は行きたがっていなかったけど、すぐ行くことに変えたようで。




真琴が行くからかしら?




「じゃあ、急いで買ってきましょう?」




「うん、行こうか」




そして、家に明那と昴を残して、近くのデパートへ向かった。




その道中、朔が私の誕生日はいつか、と尋ねてきた。




えっと、確か……




「5月31日よ」




「は!?もう過ぎてるじゃねぇか、言えよ!」




「どうして?」




「どうしてって……じゃないと祝えねぇだろ!」




やっぱり、誕生日はお祝いをする日なのね。




それよりも。




「朔、祝ってくれようとしていたの?」




「当たり前だろ」




「そう……ありがとう」




その事実が嬉しくて、頬が少し緩んでしまう。




軽い足取りで歩みを進め、デパートには昴の家を出てから15分ほどで到着した。




各自、誕生日プレゼントを選びに一旦別れることにした。




私はある雑貨屋に売られていた、Sの文字が書かれている黒い水筒をプレゼントに選んだ。




これからもっと暑くなるわ。




運動が好きな昴は、人一倍水分補給をしっかりしないと。




会計を終え、集合場所になっているデパートの外にあるオブジェの所へ移動する。




オブジェの所まであと少しといった所で、私は体調に違和感を覚えた。




頭が痛い……足に力が、入らな……




倒れる、と思ったその時。




「唯鈴!」




もう先に誕生日プレゼントを買い終えていたらしき真琴が、間一髪の所で私の体を支えてくれた。




「唯鈴、大丈夫っ?」




「ごめんなさい……足に力が、入らなくて……」




「えっ……他には?苦しいところとか……」




「頭が痛いけれど……大丈夫よ。きっとすぐ治るわ」




「そんな……ダメだよ。唯鈴、ちょっと移動するね?」




そして、真琴は私を抱き上げた。




そして必死な表情で、足早にどこかへ向かっている。




なんだか、朔みたい……




意識がぼんやりする中、そんなことを考えていると、真琴の足が止まる。




自分の体を支えにして、私を近くにあったベンチに座らせてくれる。




「横になった方が楽?」




「いいえ、大丈夫よ……」




実は、結構頭が痛いのだけど。




「脱水症状かな……唯鈴、飲み物は?」




「いらないわ」




「えっと、朔夜に電話……あっ、朔夜!」




慌てる真琴の姿に申し訳なく思っていると、どこからか私の名前を呼ぶ朔の声が聞こえてきた。




「唯鈴!どうしたんだよ……真琴、唯鈴は……」




「足に力が入らないって、倒れそうなところを俺が見つけて……頭も痛いって言うからとりあえず座らせたんだけど……」





「っ……唯鈴、前の時と一緒か?」




前の時というのは、入学式の日のことよね?




「いいえ、あの時とは違うわ。でも、大丈夫よ……」




「何が大丈夫なんだよ!今日は一旦帰るぞ。いや、病院か……?」




「病院はダメ……お金がかかってしまうわ……」




「っそんなこと気にしてる場合かよ!」




「でも本当に、これは大丈夫。お願い朔、私を信じて……」




「っ……」




きっと、これは本当に明日になれば治っている。




これは、私が“役割を果たせなかった”ことへの代償。




だから、病院へ行っても無駄。




きっと原因不明と言われるはずよ。




こうなることは前から分かっていたけれど……




心配をかけてしまうのは良くないわ。




せめて……




と私が不満に思っていると、朔が口を開く。




「……分かった、病院には行かない。けど昴の誕生日パーティはやめて家に帰る。いいな?」




そんな……




「すぐに帰ってくるって言ったのに……」




「しょうがないだろ。大丈夫、昴も明那もそのくらいで怒んねぇから。誕生日プレゼントもまた今度渡そう」




昴には申し訳ないけれど、病院を逃れるにはこうするしか無いわね……




「分かったわ……」




「ん。じゃあ乗れ」




そして、背中に乗るよう促される。




私がやっとの力で乗ると、真琴が心配そうに言ってきた。




「唯鈴。無理しないで、家に帰ったらすぐ寝ること。分かった?」




「ええ、ありがとう。ごめんなさい……」




「謝ることなんて何も無いよ。唯鈴の無事がなによりなんだから」




本当に情けないわ……




「じゃあ帰るぞ。真琴、2人に説明頼んだ。唯鈴は自分の手で渡すと思うけど、俺のは真琴から渡しといてくれ、これ」




「……分かった。唯鈴のこと、よろしくね」




「……言われなくても」




といった会話を交わして、それぞれ別方向に向かって歩き始めた2人。




温かい背中に安心しながらも、今も続く不快な頭痛に、私は改めて思う。




私に残された時間は、もう少ないのね……




と。




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「唯鈴、唯鈴。薬飲めるか?」




家に帰ってきて、朔は私をベッドに寝かせてくれた。




「ええ……」




「ゆっくりでいい。無理するな」




朔の言う通りに起き上がり、頭痛を我慢しながら薬を飲む。




「今母さんいないからあまりしてやれることが……欲しいものとかあるか?」




「いいえ、大丈夫よ……ただ、眠たいわ……」




「そうだな。じゃあ電気切って行くから、何かあればスマホで呼んでくれ」




「分かったわ。ごめんなさい、朔」




「こういう時はありがとうだろ?」




「そうね。ありがとう、朔……」




「ん」




そして、朔は部屋を出ていった。




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「お願いだから、心配させないでくれ唯鈴……消えそうなお前を見てると、不安に押しつぶされそうになる……」




朔が扉の向こうでそんなことを言っていたなんて、私が気づくはずもなかった。