真澄の声も明るかった。
「お弁当、力作だったね。とても、美味しかったよ」
 僕はいつものようにリュックから弁当のバッグを取り出すと、それを真澄の前に差し出した。その瞬間、真澄の笑顔が曇った。しまったと思ったが後の祭りだった。
 僕は真澄の表情には気づかないふりをして流し台に向かうと、黙って弁当箱を洗い水切りの籠の中に収めた。それきり、弁当箱が使われることは二度となかった。

 その後は、二人とも何事もなかったように過ごした。今まで通りにガラス戸の前に座布団を二つ並べて腰を下ろし一緒に歌を歌った。触れ合うことはできなくなっても、一緒に歌う時間は楽しいものだった。しかし、そうこうしているうちに、僕は真澄に促された。
「純さん、夕食まだでしょう。そろそろ食べに行かないとお店閉まっちゃうよ」
「ああ、そうだね。じゃあ、行ってくるよ」
 そう言って僕は財布と携帯だけを持って部屋を出た。
 真澄が食事を作ってくれるようになる前によく行っていたラーメン屋に僕は足を運んだ。結構好きだった味噌ラーメンもまるで味がしなかった。一人きりで外で食べる夕食は妙に侘しかった。