僕を見つめる美しい真澄の姿もやがて見えなくなるのかと思ったら、残されることに耐えきれないような気がした。そして、すぐさま自分の弱さに嫌気がさした。笑顔で見送るという約束をしたはずだった。だが、自分にはそれができなかった。約束も守れず、僕より辛いはずの真澄に弱音を吐いてしまった自分が情けなかった。もう二度と泣くまいと思った。
「真澄、ごめん。馬鹿なことを言って」
「私の方こそ、ごめんね。もう涙も拭いてあげられないから、どうか笑顔でいてね」
 真澄の言葉を聞きながら、まだ零れてくる涙を抑えきれない自分がとんでもない弱虫に見えた。

「じゃあ、行ってきます。」
「ちょっと待って」
 僕がバイトのために部屋を出ようとすると真澄に呼び止められた。
「お弁当があるの」
 もう弁当はないものだと思っていたので少々意外だった。
「昨夜作っておいたの。ごめんなさい。冷蔵庫の中から持って行ってくれるかな?」
 真澄は少し申し訳なさそうな顔をした。今までは玄関口で僕に手渡してくれていたのだが、今はもうそれはかなわなかった。