八月二十六日(水)

 朝、目が覚めた瞬間、真澄がもういなくなっているのではないかという不安に駆られた。慌てて横を向くと真澄の顔がすぐそばにあった。真澄は横向きに寝て僕の寝顔をのぞき込んでいたようだった。
 僕は左手を伸ばして真澄の頬に触れようとした。しかし、僕の左手は空を切った。真澄の姿はまだしっかりと見えるのに、僕はもう真澄に触れることができなくなっていた。
「ごめんね」
 真澄は寂しそうに笑った。
「謝らなくていいよ。真澄のせいじゃないんだから」
 真澄の目から涙が溢れやがて枕の上に落ちた。しかし、それが枕カバーを濡らすことはなかった。それを見た瞬間、僕の中で強がりの糸が切れた。
「真澄、僕も一緒に連れて行ってくれないかな?もう置いていかれるのにも疲れたよ。真澄なら僕を一緒に連れていけるんじゃないか?」 
 真澄はとても悲しそうな目で僕を見た。
「純さん、私にはそんな力はないわ。たとえあったとしても絶対にそんなことはしないわ」
「どうしてだよ?」
 少し感情を荒げた僕の顔を見て、真澄の表情が更に悲しみの色を増した。