ガラス戸の向こうには曇り空があるばかりで星の一つも見えなかった。これでは浴衣を着てみたところでとても花火大会の気分にはなりようがなかった。何か良い方法はないものかと思った時に名案が浮かんだ。
 僕はケースと座布団を寝室のテレビの前に移動させた。そしてテレビにノートパソコンをつないだ。僕が思いついたことはどうやら思った通りうまくいきそうだった。準備が済んだのでとりあえず僕は電源を切り、夕食になる前にシャワーを浴びることにした。
 僕はシャワーを浴びると浴衣に着替えた。それから、ケースの上にビール用のグラスを用意した後、キッチンにいる真澄に声を掛けた。
「こっちは用意できたよ」
「あれ、どうしてベランダの方じゃなくてそっちに席を作ったの?」
 別の場所に席が設けられているのを見て真澄は少し怪訝そうな顔をした。
「せっかくだから、ヴァーチャル花火大会にしようと思ってさ」
「何それ?おばさんにもわかりやすいように言ってくれないかな?」
「まあ、すぐにわかるよ」
「そう。じゃあ、食べ物を温め直すね」