「そんなことを言ったら、奈々さんにもらった三線だって同じじゃないか」
 少し怒りのこもった僕の言葉を真澄は優しく否定した。
「それは違うわ。奈々さんの三線は純さんに希望を与えてくれた。そして、今も純さんの歌作りに役立っている。これからも純さんの未来を作ってくれる。でも、私の指輪は純さんに何も与えてはくれないわ」
「そうかもしれないけど」
 真澄の方が正しいような気がした。しかし、認めたくはなかった。
「純さんには、私のこともきちんと思い出にして欲しいの。奈々さんのことを奇麗な思い出にできたようにね。だから、カイジ浜に来た時だけ、私のこともちょっとだけ思い出してくれたら嬉しいな。それが私の本当に本当の最後のお願いかな」
「どうしても、そうしなければいけないの?」
 したくなかった。だが、まだそんな質問をしている自分が弱虫の子供のような気がした。
 真澄は僕の子供じみた抵抗を打ち砕くかのように、もっともな理屈で答えてきた。
「うん、私がもらったものだから、私の好きにする権利はあると思うな」
「そう言われると返す言葉がないけど」
 僕がそう言うと、真澄はまるで小さな子供をあやす母親のように確認を求めてきた。
「じゃあ、私の最後のお願い、聞いてくれるよね?」
「ああ、わかった」
 僕にはもうそう答えるしかなかった。
「じゃあ、約束ね」
 真澄が小指を差し出してきた。僕は自分の小指を絡めて辛い約束をした。やがて失われるだろう温もりは、まだしっかりと真澄の小指から伝わってきていた。