真澄の顔は嬉しそうにも悲しそうにも見えた。
「それと、純さんにお願いがあるんだけど」
 真澄の改まった口ぶりはお願いの大変さを予感させた。だから、僕は敢えて冗談めかした対応を取った。
「欲張りだな、お願いが多すぎないか?」
「そうね、でもこれで、たぶん本当に最後だから」
 真澄の目が急に真剣な光を帯びた。僕は冗談めいた対応を取ったことを少し後悔した。
「冗談だよ。真澄のお願いならいくつでも聞いてあげるよ」
「気前がいいのね。そんなに大風呂敷を広げて後で後悔しても知らないわよ」
「後悔なんかしないよ。それで何をすればいいの?」
 真澄はその後の僕の反応を予想してか、少しためらった後、静かにお願いの内容を語った。
「私がいなくなったら、あの指輪を竹富島のカイジ浜の砂の中に埋めてほしいの」
 驚いた。嫌だと思った。聞けない願いだと思った。
「どうして、そんなことをしなければならないの?大切な思い出の品なのに」
 興奮気味に話す僕を諭すように、真澄はお願いの理由を明らかにした。
「私はね、純さんには、別れた女との思い出の品をいつまでも持っているような人になって欲しくないの」