真澄は大きく一つ深呼吸をすると瞼を開き、遠くを見るような眼をしてつぶやいた。
「よし、これでもう大丈夫」
 何が大丈夫なのかは僕にはわからなかった。そんな僕の様子に気づいてか、真澄は遠慮でもしたかのように小さな声で僕に語り掛けた。
「純さん、ケースをくれるかな?」
「ああ」
 僕は言われるままに真澄にケースを手渡した。真澄は薬指から指輪を抜くとそれをケースに収めた。蓋は開けたままだった。真澄は立ち上がると机の方に向かい、蓋が開いたままのケースを机の上に置いた。
「これで良いわ」
 真澄はそう宣言すると戻ってきて座布団に腰を下ろした。
 なぜ指輪を外したのか、僕は理由を聞きたそうな顔をしていたのだろう。真澄は自分からその理由を語り始めた。
「ゲームをしている時に純さんも気が付いたと思うけど、私の体、そろそろ限界みたい。私ね、純さんにもらった指輪が薬指からこぼれ落ちて床に転がるところを見たくなかったの。だから、そうなる前に外したの。指輪にきちんとお礼とお別れを言ってからね。あそこに置いてあるけど、私の気持ちとしては指輪はいつも薬指にあるのよ」