八月二十四日(月)

 前日の夜、台風十五号は石垣島で観測史上最高の風速七十一メートルを記録していた。その影響かその日は東京も曇りで、気温は二十九度までしか上がらなかった。
 夜、ゲームをしている時に僕は小さな異変に気が付いた。それまで、ゲームではいつも真澄が優勢だったが、その日、僕は次々と勝ちを重ねた。
「純さん、強くなったね」
 真澄は苦笑いをした。
 しかし、僕が強くなったわけではなかった。真澄が弱くなったのだ。コントローラーを操作する真澄の手つきがおぼつかなくなっていたのだ。真澄の手はもう素早くかつ細かい操作についていけなくなっていた。
 それが僕たちがゲームをした最後になった。

 その日は、もう一つ特筆すべきことがあった。
 いつものようにガラス戸の前で座布団に腰を下ろして三線の調弦をしていると、真澄が妙なお願いをしてきた。
「純さん、もう一度私の指に指輪をつけてもらえないかな」