「うん、無理みたい。」
 真澄の表情が明らかに辛そうなものに変わった。
「どうしてそう思うの?」
 どこか非難をしているような自分がひどく嫌になった。真澄は申し訳なさそうに理由を語った。
「実はね、昨日の夜に気づいたの。自分をここに縛っている力が薄れていることに。でも、同時に自分の体から力がなくなり始めたことにも気づいたの」
「昨日、言いかけたのはそのことだったんだ」
 僕の悲しい予想は当たっていた。
「うん。でも昨日はとても良い夜だったから言い出せなかったの」
 真澄がこの夏の思い出をあれこれと語り続けた理由が悲しいほどに良く分かった。
 真澄は辛そうに話の続きを切り出した。
「純さん、私はたぶん来た道を戻って行くんだと思うの。もうすぐ触れ合うこともできなくなって、やがては姿も見えなくなって、最後は声も聞こえなくなってこの世から消えてゆくんだと思う」
 やり切れない怒りが僕の口調を乱暴なものにした。
「どうして、どうして真澄がそんなひどい目に合わなければいけないんだ。真澄は何も悪いことなんかしていないじゃないか」