僕も十分過ぎるくらい幸せだとは、恥ずかしくてとても口にできなかった。
 奈々さんに関する真澄の話は更に続いた。真澄はまるでこの夏の全てを語り尽くしたいようだった。
「私、奈々さんにも会ってみたかったな。とても素敵な人だったのでしょうね。でも会ったら、自分なんてとても太刀打ちできないと思うだろうな」
「どうして、そんなに奈々さんと自分を比べるの?真澄に出会えたから、奈々さんのことはもう思い出にできたよ。今、僕が一番好きなのは真澄だから」
「嬉しいこと言ってくれるね」
 そう言うと真澄は僕の肩に体を預けてきた。
 次の瞬間、花火が空一面を覆いつくした。
「ねえ、純さん・・・」
 真澄がか細い声で何か言いかけたが、その言葉は遅れてやって来た花火の轟音にかき消された。花火大会の終わりを告げる一斉打ち上げはしばらく続いた。空を埋め尽くす花火の群れを、僕はこの目に焼き付けておきたいと思った。真澄もきっと同じことを考えているよう気がした。
しかし、夜空を染める花火の光は束の間で、後に残ったのは都会でも見えるわずかばかりの星の光だけだった。