「失礼ながら申し上げます。郁恵さんは母親似でしょうか?」
一度、言葉にするのを躊躇うが、ここで嘘を言ってしまうのは失礼に値すると察してはっきりと俺は思った通りに言葉にした。
「郁恵と私とは似ていないと。そうか、往人君には分かってしまうか」
複雑な表情を浮かべ、意味ありげに俺の言葉に反応する。
遺伝によってある程度親子であれば顔のパーツが両親のどちらかに似ると言われている。
歯の形や鼻の高さ、顎の輪郭や唇の形などさまざまあるが両者はどれも似ているとは言い難かった。
横に座る郁恵は何が何だか分からず、落ち着きなく身体が反応している。
「お父さん……どういうこと?」
目の見えない郁恵には顔立ちが似ているか似ていないかまで判別することは難しい。
俺も散々郁恵に顔を触られてきたが、ホクロの位置を知られることはあっても誰かに似ているだなんて言われたことはない。
だから、郁恵がこの目の前にいる父親と似ているかどうかは、郁恵自身には分からない。今ここにいる、俺でないと分からないことなのだ。
「郁恵、以前に大切な人が出来たら母親のことを教えると言っていたな」
「うん……」
「私はお前と似ていない。それは私が本当は血の繋がったお前の父親ではないからだ。
一緒に日本で暮らそうとしなかったのも、お前の父親でないことが誰かに勘付かれてしまうことを恐れていた、臆病さからきているものなんだ」
ただ……一緒に暮らすことになるから挨拶にと来たつもりだった。
そのはずなのに、父親は真剣な表情を浮かべ、郁恵は何のことだか整理が付かない様子で、乾いた唇で表情を硬くさせていた。
「噓でしょ……そんな、冗談だよね? お父さん……何で往人さんの前でそんな冗談を言うの……酷いよ、あんまりだよ……」
郁恵が肩を落とし、深刻な表情を浮かべ悲しげに声を震わせ瞳を潤ませる。
当然のことだろう、突然こんなことを言われれば平静でいられるわけもなく、受け入れられるはずもない。
「今のお話しは、本当のことなんですか?」
郁恵が父親の言葉で傷ついている。郁恵が目の前で悲しむ姿に耐えられず、俺も聞き返す。
嘘であって欲しいと願ったが、この時だけは悪役のように真剣な面持ちで目の前に鎮座する父親の顔面を前にすると、もう俺も正気を保つのでやっとだった。
「本当の話しだ。せっかくの機会だ、何があったのか詳しい事情も話そう。
話さないことには信じようのないことだからな。
これは郁恵にとって辛いことだろうからな……郁恵は耳を塞いでいてもいい。
代わりに往人君が聞いてくれるのだからな。
だがな、いつか郁恵が大人になったら話そうとずっと心に留めていたことだよ。
もう、親元を離れていくのだから、知っておいた方がいいだろう。
私のしてきたことは偽善に過ぎないとな」
罪悪感があるのか疑い深くなるほど急に饒舌になって話し始めた父親。
しかし、もはや逃げも隠れも出来ない。
この父親の告白を必死に堪えて聞くしかない。
俺は郁恵の手を握った。郁恵は頭を横に振って、震えた唇で声を上げた。
「耳を塞いだりしないよ……私、そんなに弱くないから」
それが強がりであることは分かりやすかったが、真実の重みが身体に圧しかかる中、郁恵は必死に厳しい現実と向き合おうとしていた。
一度、言葉にするのを躊躇うが、ここで嘘を言ってしまうのは失礼に値すると察してはっきりと俺は思った通りに言葉にした。
「郁恵と私とは似ていないと。そうか、往人君には分かってしまうか」
複雑な表情を浮かべ、意味ありげに俺の言葉に反応する。
遺伝によってある程度親子であれば顔のパーツが両親のどちらかに似ると言われている。
歯の形や鼻の高さ、顎の輪郭や唇の形などさまざまあるが両者はどれも似ているとは言い難かった。
横に座る郁恵は何が何だか分からず、落ち着きなく身体が反応している。
「お父さん……どういうこと?」
目の見えない郁恵には顔立ちが似ているか似ていないかまで判別することは難しい。
俺も散々郁恵に顔を触られてきたが、ホクロの位置を知られることはあっても誰かに似ているだなんて言われたことはない。
だから、郁恵がこの目の前にいる父親と似ているかどうかは、郁恵自身には分からない。今ここにいる、俺でないと分からないことなのだ。
「郁恵、以前に大切な人が出来たら母親のことを教えると言っていたな」
「うん……」
「私はお前と似ていない。それは私が本当は血の繋がったお前の父親ではないからだ。
一緒に日本で暮らそうとしなかったのも、お前の父親でないことが誰かに勘付かれてしまうことを恐れていた、臆病さからきているものなんだ」
ただ……一緒に暮らすことになるから挨拶にと来たつもりだった。
そのはずなのに、父親は真剣な表情を浮かべ、郁恵は何のことだか整理が付かない様子で、乾いた唇で表情を硬くさせていた。
「噓でしょ……そんな、冗談だよね? お父さん……何で往人さんの前でそんな冗談を言うの……酷いよ、あんまりだよ……」
郁恵が肩を落とし、深刻な表情を浮かべ悲しげに声を震わせ瞳を潤ませる。
当然のことだろう、突然こんなことを言われれば平静でいられるわけもなく、受け入れられるはずもない。
「今のお話しは、本当のことなんですか?」
郁恵が父親の言葉で傷ついている。郁恵が目の前で悲しむ姿に耐えられず、俺も聞き返す。
嘘であって欲しいと願ったが、この時だけは悪役のように真剣な面持ちで目の前に鎮座する父親の顔面を前にすると、もう俺も正気を保つのでやっとだった。
「本当の話しだ。せっかくの機会だ、何があったのか詳しい事情も話そう。
話さないことには信じようのないことだからな。
これは郁恵にとって辛いことだろうからな……郁恵は耳を塞いでいてもいい。
代わりに往人君が聞いてくれるのだからな。
だがな、いつか郁恵が大人になったら話そうとずっと心に留めていたことだよ。
もう、親元を離れていくのだから、知っておいた方がいいだろう。
私のしてきたことは偽善に過ぎないとな」
罪悪感があるのか疑い深くなるほど急に饒舌になって話し始めた父親。
しかし、もはや逃げも隠れも出来ない。
この父親の告白を必死に堪えて聞くしかない。
俺は郁恵の手を握った。郁恵は頭を横に振って、震えた唇で声を上げた。
「耳を塞いだりしないよ……私、そんなに弱くないから」
それが強がりであることは分かりやすかったが、真実の重みが身体に圧しかかる中、郁恵は必死に厳しい現実と向き合おうとしていた。