「ごめんなさい、本当は演奏が終わったらすぐに感想を聞くつもりだったのにバタバタしちゃって、聞きそびれたね」

 椅子に座ってようやく暖房の効いた室内にいる安心感に包まれると私は往人さんに言った。
 映像では見せていたけど、やっとこの場でサンタ衣装を往人さんに見てもらうことが出来た。意外と生地はしっかりしていて温かいけど、やっぱりスカートが短いことが気になる。ハイソックスを履いているのに太股部分の肌が露出したままだ。

「そうだな……あんなに盛り上がってたら仕方ねぇだろ。気にしてないよ。
 華鈴さんもいつも以上に気合が入ってて、いい演奏だったな。
 郁恵のことみんな驚いてたろ? 遅くまで練習していた甲斐があって良かったよ。
 努力を重ねれば、目が見えなくても出来ることがある。ちゃんと証明できたじゃないか」

 往人さんが演奏を手放しで私のことを褒めてくれる。声にも力が戻ったようで体調が良くなったのは間違いではないようだ。

「ありがとう、恵美ちゃんや静江さんも褒めてくれて。
 華鈴さんとは長い期間を掛けて練習いっぱいしたから、凄い達成感でいい思い出になったよ。
 去年は私が腕を怪我したせいで開催できなくて哀しかったけど、頑張り続けて良かった。
 嬉しい時に出る涙は格別だなって」

「演奏会に向けて頑張って来た分、喜びもひとしおか。
 よかったな……俺も店にいたかったよ」

 一息つきながら、やり遂げられたことの達成感に包まれる。
 こうして二人きりでいるのが不思議なことのはずなのに、望んでいた通りに二人きりでいると、これが運命であるように感じてしまう。

「うん……往人さん……私のこと、見えてるよね?」
「当然だろ」
「私、恥ずかしい格好してないかな?」

 足を閉じて、上目遣いに私は聞いた。

「まだ自分に自信が持てないのか? 綺麗だよ……ちょっとスカートが短くて目のやり場に困る気がするけど」

 会話が途切れて沈黙に包まれるのが嫌で、ついつい何でも口から出てしまう不自然なくらいに緊張する私がいた。

 意識すればするほど、たまらなく恥ずかしいくらい恋をしている自分がいる。
 何だろうこの空気は……お互いドラマの演技をミスしないように一生懸命に振舞ってるみたいだ。
 けど、往人さんが私のことを見てくれているんだと分かると嬉しいのにさらに恥ずかしくなってしまう自分がいた。

「そうだよね……華鈴さんの趣味が入ってるから。
 そうだ、クリスマスケーキ貰ってきたから、一緒に食べよう?
 往人さんの分、華鈴さんがこっそり置いておいてくれたから」

 この浮ついた空気を紛らわすように私はクリスマスケーキの入った紙袋をテーブルに置いた。 
 こっそりではなく、堂々と確保して私に託す満々だったと思うけど、少しだけ私は嘘を付いた。だってこれは、往人さんへのサプライズ誕生日ケーキでもあるんだから。

 往人さんが上質な喫茶さきがけのケーキをカットしてローソクを立ててくれる。
 私は誘導を受けながら、ローソクに火を付けて、ハッピーバースデーを歌って一緒に息を吹きかけて火を消した。

「上手に消せた?」

 自然と笑顔が零れる中、私は聞いた。

「あぁ、何だか二人でこんなことしてるのが不思議な気分だ」
「それはそうだよ……でも、お祝い出来てよかった……」

 息を吹きかけるために少し顔を近づけすぎたかもしれない。
 いつもより優しく柔らかい気配を纏った往人さんを一瞬だけど凄く近くに感じてしまった。

「これってやっぱり、クリスマスケーキじゃなくて誕生日ケーキだったのか?」

「そうかもしれないね、ちょっとだけフライングだけど」

 販売されたショートケーキのクリスマスケーキは試食で食べたが、渡されたこのケーキについては私は何も聞かされていないからこういう返答になった。

 大勢で騒がしく過ごす時間とはまた違う、二人の時間。
 身体の疲れなんて吹き飛ぶくらい、ドキドキしながら、私は往人さんと一緒にケーキを食べた。
 私は一切れ食べたら胃袋が限界で胸やけしてしまったから、往人さんがほとんど食べてくれた。

「美味しかったね、ハッピーバースデーの板チョコも入ってたし」
「サンタとトナカイもいたから、これは確かにクリスマスケーキでもあったな」

 往人さんが板チョコを食べて、私はサンタとトナカイの砂糖菓子を食べた。
 中身は苺の乗ったショートケーキではなくて、甘く蕩けるようなチョコレートケーキだった。それは往人さんからの情報によると私の知らなかった裏メニューようなお得意様用だったらしい。

「それとね……今日はもう一つ、プレゼントがあるんだ」
 
 私は一緒に美味しいケーキを食べると、タイミングよく紙袋からマフラーを取り出した。