「ここは空気も悪い、あまり居心地のいいところではないだろう。
休憩は上の階で取ろうか」
「は、はい……」
考え疲れているのか、声は小さく遠慮がちに彼女は返事をした。
手を繋いで階段を上がる間、俺の部屋に入るわけではないのに、居候している師匠の家に上がるだけで彼女は緊張している様子だった。
「店に迎えに行く前にサンドイッチとクラムチャウダーを作っておいた。
これで少しは心を落ち着かせるといいさ」
クラムチャウダーを温めている間に盲導犬はエサを飼い主からもらったようで、尻尾を振りながら満足そうにお皿に向かって食らい付いていた。
「これ、とっても美味しいです。このクラムチャウダーはアサリが入ってるんですね。このサンドイッチと相性が良くて、ついつい沢山食べてしまいます」
朝食の続きで作ったハムカツサンドときゅうりとレタスの入った卵サンドは彼女の舌に好評のようだった。
クラムチャウダーは寒くなって来たこの季節にはちょうど良く、細かく切ったジャガイモやニンジンに加え、アサリの触感がアクセントになっている。
お腹を満たしてすっかり機嫌を良くして明るくなった姿は顔色も良くなっていた。これなら後半戦も乗り切ってくれそうだ。
盲導犬の排泄処理を終えてアトリエに戻り、同じ姿勢を取ってもらい、人物デッサンを再開する。
時間が限られることから、必要以上にリアリズムを追求せず、線を加え過ぎずデフォルメを加えながら特徴を捉えていく。
後々は水彩画やパステル画で彼女を描いてみたい気持ちもあり、風景に溶け込むような意識で取り組みたかった。
八号サイズのキャンバスに鮮明な形でソファーに座る彼女の姿が浮かび上がり、ようやく形となり始めた。
その後も献身的に姿勢を崩さず座っていてくれたおかげで、十分に描写することができ、残りは一人で完成まで持っていけるところまでやり遂げた。
慣れない環境に彼女は少し疲れの色を滲ませていたが、最後まで明るく俺と会話をしていた。
「往人さん……帰る前に一つだけ聞いてもいいですか?」
「あぁ、もちろんだ」
俺は即答した。白いコートを纏い、アトリエのソファーから立ち上がった彼女はリードを握り、いつになく真剣な表情をしていた。
「往人さんのお母さんはどんな方でしたか?
私……実の母がどんな人なのか知らないんです。いえ、正確には母の記憶が欠落しているんです。だから私の家族はお父さんとこのフェロッソだけなんです。
今更そのことを嘆いたりはしません。でも、往人さんにとってお母さんが大切な人なら、どんな人なのか知りたいです」
落ち着きがなくて、子どもっぽいところがあるのに、どうしてか彼女は真に迫るような言動をする時がある。
よく頭の中で考えて、整理しているのだろう。
だから、俺との会話の中で引っ掛かったことを今になって問い掛ける。
ゆっくりと説明していくつもりだったが、まだ話していなかった秘密にしてきた箇所まで辿り着いてしまう覚悟を決めた。
休憩は上の階で取ろうか」
「は、はい……」
考え疲れているのか、声は小さく遠慮がちに彼女は返事をした。
手を繋いで階段を上がる間、俺の部屋に入るわけではないのに、居候している師匠の家に上がるだけで彼女は緊張している様子だった。
「店に迎えに行く前にサンドイッチとクラムチャウダーを作っておいた。
これで少しは心を落ち着かせるといいさ」
クラムチャウダーを温めている間に盲導犬はエサを飼い主からもらったようで、尻尾を振りながら満足そうにお皿に向かって食らい付いていた。
「これ、とっても美味しいです。このクラムチャウダーはアサリが入ってるんですね。このサンドイッチと相性が良くて、ついつい沢山食べてしまいます」
朝食の続きで作ったハムカツサンドときゅうりとレタスの入った卵サンドは彼女の舌に好評のようだった。
クラムチャウダーは寒くなって来たこの季節にはちょうど良く、細かく切ったジャガイモやニンジンに加え、アサリの触感がアクセントになっている。
お腹を満たしてすっかり機嫌を良くして明るくなった姿は顔色も良くなっていた。これなら後半戦も乗り切ってくれそうだ。
盲導犬の排泄処理を終えてアトリエに戻り、同じ姿勢を取ってもらい、人物デッサンを再開する。
時間が限られることから、必要以上にリアリズムを追求せず、線を加え過ぎずデフォルメを加えながら特徴を捉えていく。
後々は水彩画やパステル画で彼女を描いてみたい気持ちもあり、風景に溶け込むような意識で取り組みたかった。
八号サイズのキャンバスに鮮明な形でソファーに座る彼女の姿が浮かび上がり、ようやく形となり始めた。
その後も献身的に姿勢を崩さず座っていてくれたおかげで、十分に描写することができ、残りは一人で完成まで持っていけるところまでやり遂げた。
慣れない環境に彼女は少し疲れの色を滲ませていたが、最後まで明るく俺と会話をしていた。
「往人さん……帰る前に一つだけ聞いてもいいですか?」
「あぁ、もちろんだ」
俺は即答した。白いコートを纏い、アトリエのソファーから立ち上がった彼女はリードを握り、いつになく真剣な表情をしていた。
「往人さんのお母さんはどんな方でしたか?
私……実の母がどんな人なのか知らないんです。いえ、正確には母の記憶が欠落しているんです。だから私の家族はお父さんとこのフェロッソだけなんです。
今更そのことを嘆いたりはしません。でも、往人さんにとってお母さんが大切な人なら、どんな人なのか知りたいです」
落ち着きがなくて、子どもっぽいところがあるのに、どうしてか彼女は真に迫るような言動をする時がある。
よく頭の中で考えて、整理しているのだろう。
だから、俺との会話の中で引っ掛かったことを今になって問い掛ける。
ゆっくりと説明していくつもりだったが、まだ話していなかった秘密にしてきた箇所まで辿り着いてしまう覚悟を決めた。