「郁恵!! 無事でよかった!!」
喫茶さきがけに着いた私は早速恵美ちゃんの抱擁を受けた。
泣きながら帰ってきてしまったせいで、往人さんは何か華鈴さんに問い詰められているようだった。
私はフェロッソのことも優しく胸に抱き入れ、無事に帰って来れたことを喜んだ。
もう時刻は二一時を回っている。静江さんや恵美ちゃんにも長居させてしまい迷惑を掛けてしまった。
―――あの……それでどうして桜井往人さんが私をホテルまで助けにきてくれたんですか?
私は喫茶さきがけでお気に入りのアイスミルクティーを飲みながら聞いた。
「それはね……桜井往人君はこの喫茶さきがけのシェフだからよ」
何と驚いたことに往人さんはアトリエに住み込みで暮らして絵を描きながら、この喫茶さきがけで厨房のアルバイトをしているそうだ。
「それじゃあ……私がいつも食べてるオムライスやスパゲティー、サンドイッチはみんなみんな往人さんがお料理されているってことですか?!」
皆からその通り! とはっきり言われてしまう。
もちろん全ての営業日を働かされているわけではないだろうが、衝撃的事実が明らかになった。
私は何も知らなかったが、みんなは往人さんのことを知っていたようだ。
それも、私が閉店後にピアノを演奏していると、よく席に着いてスケッチブックに私のことを描いていたという。
往人さんはあの日助けた私がよく喫茶さきがけに通うようになったにも関わらず今日まで声を掛けることなく黙っていたのだ。
なんということか……驚きで開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。私はあまりに自分が置いてけぼりを食らっていたことに驚かされて返す言葉を失った。
その後、喫茶さきがけでも長居して話しに夢中になってしまったことでさらに帰りが遅くなり、私は周りの後押しのせいもあり、往人さんに学生寮まで送ってもらうことになった。
着替えを済ませて、みんなに見送られながら往人さんと喫茶さきがけを出る。静江さんと恵美ちゃんは二人で仲良く帰るようだった。
「再会を迎えるにしても、こんなことになるとは思いませんでした」
「確かに、俺だって君がここに通うことになるとは想定外だったよ」
運命の赤い糸で繋がっていたなんてドラマみたいに言いたいところだけど、未だ理性的な思考が出来るほど冷静になれていない私は全てが華鈴さんの手のひらの上で踊っている、弄ばれているように思えた。
あの人ならやりかねない、今も喫茶さきがけで愉快な笑みを浮かべていることだろう。
「ほら、手を出してください。私のこと、送ってくれるんですよね?
ちゃんと、夜の街を歩くんですから私を安心させてください、慶誠OBの先輩」
私にとっては朝も昼も夜も大きく変わらないが、世界は違う。
夜の一人歩きは田舎でも危険だとよく言われる時代になった。
フェロッソも夜目が利くわけではないので、無理に頼ってしまっては悪い。
ここは往人さんに頼るのが最善だった。
「仕方ないな……。坂倉から何を吹っ掛けられたか知らないが、俺のことを多少知ってるようだから、今日は従っておこう」
いきなり距離を詰められるのは往人さんでも緊張するようだった。
しぶしぶ私の手を掴み、ゆっくりと足を伸ばす。
温かくて大きな、がっしりとした男性の手。それなのに、柔らかくてサラサラで、不思議な感触をしていて包み込まれるような感覚がした。
「ちなみに私の住んでいる学生寮は女子寮なので残念ですが往人さんは中に入れませんよ」
「学生寮まで送るだけだ、中まで入るつもりはないっての……」
高揚感が続いているせいでつい嬉しさ交じりに会話してしまう。
往人さんも嫌そうな様子はなく、どこか照れている様子だった。
喫茶さきがけに着いた私は早速恵美ちゃんの抱擁を受けた。
泣きながら帰ってきてしまったせいで、往人さんは何か華鈴さんに問い詰められているようだった。
私はフェロッソのことも優しく胸に抱き入れ、無事に帰って来れたことを喜んだ。
もう時刻は二一時を回っている。静江さんや恵美ちゃんにも長居させてしまい迷惑を掛けてしまった。
―――あの……それでどうして桜井往人さんが私をホテルまで助けにきてくれたんですか?
私は喫茶さきがけでお気に入りのアイスミルクティーを飲みながら聞いた。
「それはね……桜井往人君はこの喫茶さきがけのシェフだからよ」
何と驚いたことに往人さんはアトリエに住み込みで暮らして絵を描きながら、この喫茶さきがけで厨房のアルバイトをしているそうだ。
「それじゃあ……私がいつも食べてるオムライスやスパゲティー、サンドイッチはみんなみんな往人さんがお料理されているってことですか?!」
皆からその通り! とはっきり言われてしまう。
もちろん全ての営業日を働かされているわけではないだろうが、衝撃的事実が明らかになった。
私は何も知らなかったが、みんなは往人さんのことを知っていたようだ。
それも、私が閉店後にピアノを演奏していると、よく席に着いてスケッチブックに私のことを描いていたという。
往人さんはあの日助けた私がよく喫茶さきがけに通うようになったにも関わらず今日まで声を掛けることなく黙っていたのだ。
なんということか……驚きで開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。私はあまりに自分が置いてけぼりを食らっていたことに驚かされて返す言葉を失った。
その後、喫茶さきがけでも長居して話しに夢中になってしまったことでさらに帰りが遅くなり、私は周りの後押しのせいもあり、往人さんに学生寮まで送ってもらうことになった。
着替えを済ませて、みんなに見送られながら往人さんと喫茶さきがけを出る。静江さんと恵美ちゃんは二人で仲良く帰るようだった。
「再会を迎えるにしても、こんなことになるとは思いませんでした」
「確かに、俺だって君がここに通うことになるとは想定外だったよ」
運命の赤い糸で繋がっていたなんてドラマみたいに言いたいところだけど、未だ理性的な思考が出来るほど冷静になれていない私は全てが華鈴さんの手のひらの上で踊っている、弄ばれているように思えた。
あの人ならやりかねない、今も喫茶さきがけで愉快な笑みを浮かべていることだろう。
「ほら、手を出してください。私のこと、送ってくれるんですよね?
ちゃんと、夜の街を歩くんですから私を安心させてください、慶誠OBの先輩」
私にとっては朝も昼も夜も大きく変わらないが、世界は違う。
夜の一人歩きは田舎でも危険だとよく言われる時代になった。
フェロッソも夜目が利くわけではないので、無理に頼ってしまっては悪い。
ここは往人さんに頼るのが最善だった。
「仕方ないな……。坂倉から何を吹っ掛けられたか知らないが、俺のことを多少知ってるようだから、今日は従っておこう」
いきなり距離を詰められるのは往人さんでも緊張するようだった。
しぶしぶ私の手を掴み、ゆっくりと足を伸ばす。
温かくて大きな、がっしりとした男性の手。それなのに、柔らかくてサラサラで、不思議な感触をしていて包み込まれるような感覚がした。
「ちなみに私の住んでいる学生寮は女子寮なので残念ですが往人さんは中に入れませんよ」
「学生寮まで送るだけだ、中まで入るつもりはないっての……」
高揚感が続いているせいでつい嬉しさ交じりに会話してしまう。
往人さんも嫌そうな様子はなく、どこか照れている様子だった。