気絶していた状態から、意識が段々とはっきりしてくると柔らかいベッドの上に布団を掛けられることなく、仰向けに寝かせられていることに気付いた。

 一体どれだけの時間、眠っていたのだろう。先程の打ち上げパーティー会場とは違い、とても静かで甘い芳香剤の香りが部屋に漂っていた。

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 すでに酔いが覚めているかのようなドライな声色……それは坂倉さんの声に間違いはなかった。
 二人きりでベッドのある部屋にいる……そんな想像が脳裏によぎった。

「ここは何処ですか……?」
「客室だよ。ここはホテルだからな、当然だろう」
 
 私の質問に坂倉さんが何事もないかのように答える。
 具合が悪くなったから連れてきたにしては心配している様子がなかった。
 拘束もされていない。でも、たとえこの客室から無理矢理抜け出そうとしても、成人男性を前にしてひ弱で瘦せ型の私に逃げられるような気はしなかった。

「それじゃあ―――」

 私が次の言葉を言いかけたところで、手首を強く掴まれた。
 恐怖のあまり声が出なくなり、助けを求めてスマホを取り出すことも出来ない。

「わざわざ二人きりになるために睡眠薬を仕込んでまでこのシチュエーションをセッティングした。
 これから何をするのか、初心(うぶ)なお前でも分かるはず。
 やっと二人きりになれたんだ……ここで俺の女になるんだよ。
 怖いことはない。相手が童貞だったら乱暴で痛くて苦しいかもしれないが、俺は慣れているから痛くはしないさ」

 乾杯した時に飲んだシャンパンに睡眠薬が含まれていたのだろうか。
 だが考えても仕方ない、それ以外にも思い付くタイミングはいくつも考えられた。

 それにしても……私を拘束していない理由……。
 無理矢理する気はないのに、この人は私のことをこの場で抱こうとしているようだ。誰にも身体を許したことのない、この私と。
 ここで怯えてはならない。それは相手の思うつぼだと考え、私は気持ちを強く持とうと堂々とした自分に切り替えた。

「どうしてこんなことをするんですか! 涼子さんのこと大切にしてください! あの人はあなたのことを好きなんでしょう? 私は坂倉さんと付き合うつもりはありません!」

 部屋に連れ込み、逃げ場を失くして強引に私の身体を好き放題に奪おうとしている。まるで抵抗する姿すら楽しみ、獲物を釣り上げようとしているかのようだ。それは間違っていると、恐ろしさを通り越して感情が湧き立たないはずがなかった。

「涼子はプライドの高い誰にも縛られない女性だよ。
 何度も身体を重ねたが、それが良く分かる。キャンパス内では涼子はマドンナのような存在、他の男から声を掛けられることは少なくない。
 涼子にとって俺は悪い虫が近づいてこないための男に過ぎないのさ。
 いずれ違う道を歩いて行くことは分かっている。
 だから、お前が俺には必要なんだよ。無垢な心を持った君の存在が」

「私は無垢でも何でもありません! この分からず屋!」

 身体を押さえつけられたまま、大きな声を出して私は必死に叫ぶが、それが癇に障ったのか、坂倉さんは強引に胸を鷲掴みにした。

「なら、好きな男でも出来たというのか?」
「それは……」

 私は返事に困り、そのまま頭をぶんぶんと振り、足もバタバタさせた。
 必死の抵抗を試みて逃げようとするが、悲しいことに力の差は歴然だった。

「本当にやめてくださいっ! これは犯罪ですよっ!!」

 私の気持ち悪さで表情が苦痛に歪んだ。坂倉さんの大きな手で柔らかい胸は刺激され、身体に電気が走るような感じたことのないような感覚に襲われる。
 乳首までも二本の指で挟み、転がすその慣れた動作は不気味なほどに不快なものだった。

「俺は本気でお前のことを愛している。
 他の女なんてすぐにでも捨てられる。
 俺の周りにいる女は元々そういう距離感にある女ばかりだ。
 金銭目的で近づいて来る女とずっと一緒にいられると思う程、俺は愚かじゃない。分かってくれるだろう?
 俺ならお前を不自由させない、だから俺のところに来い」

「私……そんな……」

 身動きが取れず涙声になってしまう。カーディガンのポケットにある防犯ブザーに伸ばした手も静止してしまう。身体を押さえつけられ、抵抗できずに荒くなってくる呼吸。
 
 坂倉さんの言葉で揺れ動く心、抵抗を続けるよりもこの場で起こることを受け入れた方がきっと楽だと、もう一人の自分が言い聞かせようとしてくる。

 だけど……こんなことで大切なものを失いたくないと、身体は正直だった。


「はぁ……ああぁぁぁ!! 助けてください!! 誰かお願いします!!」


 抵抗虚しく衣服が乱れていくのを感じる中、防犯ブザーのスイッチをオンにして、すぐに枯れてしまいそうなくらい、悲鳴混じりの声を私は上げた。
 坂倉さんの感情が一気に私の身体を楽しむ余裕がないほどに、怒りに包まれていくのが分かる。
 空調の掛かった客室にも関わらず、熱気に包まれていく。

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