――ピアノソナタ第11番第3楽章『トルコ行進曲』、モーツァルトの作品においてもっともポピュラーなピアノ独奏曲であるこの楽曲を私は選んだ。
親しみやすい曲調でリズムは取りやすく、一度しっかり覚えれば自然と指が期待に応えてくれるが、テンポ取りが重要で、調子に乗って早いテンポで弾き過ぎないように注意しなければならない。
最初にイメージした通りに慌てることなく、心にゆとりを持って指を動かしていく。
ブランクのせいで指を吊りそうになるが、そこをグッと堪えて集中力を乱さずに弾き鳴らす。
繰り返しが多い楽曲のため、序盤を乗り越えれば心地良い空気のまま演奏できるが油断は出来ない。
私は期待に応えられるだけの演奏をするため、出来る限りミスのないよう激しい指の動きに食らい付いていく。
そして、終盤に差し掛かりイ長調部分を再現した後、コーダに入り華々しいラストまでを駆け上がり、四分近い楽曲を閉じた。
先程の演奏者の女性と同じく、私にも観客から拍手が送られる。
私はグッと込み上げて来る感動そのままにピアノ椅子から立ち上がると、晴れやかな気持ちでお辞儀をした。
「皆さん、ありがとうございます!!」
拍手に応えて精一杯に声を張り上げる。自然とやり遂げた達成感が込み上げてくる。
「急なお誘いだったのにありがとう、素敵なものを聴かせてもらったわ」
「そうね、懐かしい青春の日々を思い起こさせる、若さ溢れる素敵な演奏だったわ」
先程の演奏者の女性もウェイトレスの女性も駆け寄って来てくれて手放しで演奏を褒めてくれる。
私は身体を支えられながら丸テーブル席の下でお座りしていたフェロッソの下へと案内してもらう。
演奏を終えた途端、緊張していたためどっと疲れが押し寄せる。フェロッソを抱き締め、軽く撫でてあげたところで私はようやく安心感と一緒に落ち着きを取り戻した。
「すみません……覚えるのが苦手で、短い曲しか聴かせられる演奏が出来なくて」
無事に演奏をやり遂げた後の安堵と心地よさ、私は久々にピアノを演奏出来た嬉しい気持ちに満たされ言葉を伝えた。
私が盲導犬を連れて目が見えないことを知った上で、手を差し伸べてピアノに誘ってくれた。それが私にとって、何よりも嬉しいことだった。
「驚いたわ、譜面の内容を全て暗記できているのね。
地道な努力が伝わってくる演奏をありがとう。素敵な演奏のお礼に料理を奢ってあげるわ。何か食べたいものはあるかしら?
純喫茶風のお店だけど、洋風メニューも用意しているわよ」
長い時間をかけて耳コピしているに過ぎなくて、技術はまだまだだがウェイトレスの女性は喜んでくれた。
「それじゃあ……オムライスはメニューにございますか?」
私はお昼時でもあることを思い出して、昼食にとオムライスを頼んだ。
「もちろんOKよ。ハヤシライスソースのオムライスプレートを御馳走するわ。
うちご自慢の若い男のシェフが調理するから、ちょ――っとだけ待っていてね」
人当たりの良い軽やかな調子で注文を受けて、店の奥へと向かっていく。
私はようやく席に付いて身体を楽にした。
親しみやすい曲調でリズムは取りやすく、一度しっかり覚えれば自然と指が期待に応えてくれるが、テンポ取りが重要で、調子に乗って早いテンポで弾き過ぎないように注意しなければならない。
最初にイメージした通りに慌てることなく、心にゆとりを持って指を動かしていく。
ブランクのせいで指を吊りそうになるが、そこをグッと堪えて集中力を乱さずに弾き鳴らす。
繰り返しが多い楽曲のため、序盤を乗り越えれば心地良い空気のまま演奏できるが油断は出来ない。
私は期待に応えられるだけの演奏をするため、出来る限りミスのないよう激しい指の動きに食らい付いていく。
そして、終盤に差し掛かりイ長調部分を再現した後、コーダに入り華々しいラストまでを駆け上がり、四分近い楽曲を閉じた。
先程の演奏者の女性と同じく、私にも観客から拍手が送られる。
私はグッと込み上げて来る感動そのままにピアノ椅子から立ち上がると、晴れやかな気持ちでお辞儀をした。
「皆さん、ありがとうございます!!」
拍手に応えて精一杯に声を張り上げる。自然とやり遂げた達成感が込み上げてくる。
「急なお誘いだったのにありがとう、素敵なものを聴かせてもらったわ」
「そうね、懐かしい青春の日々を思い起こさせる、若さ溢れる素敵な演奏だったわ」
先程の演奏者の女性もウェイトレスの女性も駆け寄って来てくれて手放しで演奏を褒めてくれる。
私は身体を支えられながら丸テーブル席の下でお座りしていたフェロッソの下へと案内してもらう。
演奏を終えた途端、緊張していたためどっと疲れが押し寄せる。フェロッソを抱き締め、軽く撫でてあげたところで私はようやく安心感と一緒に落ち着きを取り戻した。
「すみません……覚えるのが苦手で、短い曲しか聴かせられる演奏が出来なくて」
無事に演奏をやり遂げた後の安堵と心地よさ、私は久々にピアノを演奏出来た嬉しい気持ちに満たされ言葉を伝えた。
私が盲導犬を連れて目が見えないことを知った上で、手を差し伸べてピアノに誘ってくれた。それが私にとって、何よりも嬉しいことだった。
「驚いたわ、譜面の内容を全て暗記できているのね。
地道な努力が伝わってくる演奏をありがとう。素敵な演奏のお礼に料理を奢ってあげるわ。何か食べたいものはあるかしら?
純喫茶風のお店だけど、洋風メニューも用意しているわよ」
長い時間をかけて耳コピしているに過ぎなくて、技術はまだまだだがウェイトレスの女性は喜んでくれた。
「それじゃあ……オムライスはメニューにございますか?」
私はお昼時でもあることを思い出して、昼食にとオムライスを頼んだ。
「もちろんOKよ。ハヤシライスソースのオムライスプレートを御馳走するわ。
うちご自慢の若い男のシェフが調理するから、ちょ――っとだけ待っていてね」
人当たりの良い軽やかな調子で注文を受けて、店の奥へと向かっていく。
私はようやく席に付いて身体を楽にした。