友人になった恵美ちゃんは気遣いの出来る面倒見の良いタイプで同じく面倒見の良い静江さんとも気が合うようだった。
三人で顔を合わせた最初の機会から大学生になった私のことを尊敬してくれていて、応援してくれると言ってくれている。
私や静江さんよりも身長が高くて体格的にも頼りある雰囲気だけど、本人的にはあまり自分の体格を良く思っていないのか反応は薄く、触れて欲しくないようだった。
友人を作るのが上手でないのは私と同じで、自分から話しかけるのには勇気が必要で、人見知りをしてしまうようだ。
せっかくの縁だと思い、恵美ちゃんとは同じ講義を多く選んでゼミも一緒にすることにして、お互いの為にもなるからと、よくつるんで行動するようになった。
四月中旬に入り、履修登録も終わっていよいよ朝から夕方まで講義が続く日々に入った。
私はまだ一回生だからほとんどが共通科目で占めていて、外国語や保健体育も入っているから、ぎっしり一日講義で詰まっている印象だった。
昼休みに入り、一緒に同じ講義を受けていた恵美ちゃんと食堂で静江さんを入れて三人で昼食をする予定になっていたが、私は食堂に向かう途中で見知らぬ人に話しかけられた。
「そこのお二人さん、ちょっといいかい?」
軽快に声を掛けてきたのは男性だが、足音から二、三人で行動していることを感じた。
声のトーンからして一般的な見方では少し馴れ馴れしさを感じるような態度だった。
曖昧な表現になるが、相手のことが分からず不安な気持ちになった。
一人でいるときにも、特別用がないのに話しかけられることがある私は普段からあまり警戒心を表に出さないよう、気を付けて接している。
恵美ちゃんが隣にいるから、トラブルにはならないと思うけど、私は慎重に接することにした。
「はい、なんですか?」
明らかに私の方を見て話しかけられたように感じた私は即座に反応した。
「あぁ……すまないね、突然話しかけてしまって。
そこまで警戒しなくてもいいよ。
慶誠大のミスコン運営委員会の者で、今年も開催が決まったから紹介活動をしているんだよ」
微妙に丁寧な言い回しをして勧誘ではないのかと思った直後、私は男性に手を握られ、冊子のようなものを手渡された。
目の見えない私だから、それで相手のことを軽率だとすぐに決めつけてはならないけど、何かを訴えかけているようなオーラを感じた。
握られた感触は柔らかくて綺麗な手をしていて、大きくて逞しい力強い男性の手だった。
本気を出せば振り払うことは出来ないだろう、私はそれだけのことを自然と感じ取った。
「へぇ……誰でも出られるんですか?」
それほど興味を抱いている風ではなかったが、恵美ちゃんが会話に入ってくれた。
「そうだね、運営委員会の写真撮影に応じてくれれば誰でも出られるよ。
勝手に写真を撮ってエントリーさせたりはしないから、そこは安心してくれたまえ。
実際のところ、昔のように見世物になるような舞台上での催しはなく投票も学生だけが入れるウェブサイト上と専用冊子から行われるのみだから、あまり大ごとに考えなくてもいいよ」
男性は滑舌よく簡単に説明をして、同じようなことが私が持っている紙にも書いてあると言った。
「だってさ、郁恵。興味ある?」
当たり障りのない説明であまり感情は浮かばなかったが、恵美ちゃんに興味があるかと聞かれてしまったから、何か答えなければならないだろう。
私は少し考えて口を開いた。
「自分の外見に自信を持ったことがないので、ちょっとよく分からないです」
求められた回答が出来たか分からないけど、私は本心から言葉を発した。
ミスコンだというからにはしっかりと化粧やファッションの分かる綺麗な女性や愛嬌のある可愛い女性が着飾って出るのだろう。
ミスコン受賞者が多いと聞くテレビのアナウンサーをしている女性などは綺麗な人が多いと聞くが、私にはよく分からない。
それは、日頃しっかりスキンケアをして自分磨きを欠かさないような人であることは分かるが、人に好かれることと美人であるかどうかはまた別のことのような気がして、考えがはっきりとしなかった。
自分の外見のことなんてよく分からない。特に客観的な意見を聞く機会はほとんどない。だから、知り合いに褒められれば嬉しいけど、それ以上の感情を抱くことはほとんどこれまでの人生でなかった。
「そうか、それはいい機会かもしれないよ。
好奇の目で見られることは気分の良いことではないかもしれないが、自分のことを客観的に見てもらう機会はそう多くない。
自分のことを知っておくことは悪いことではないだろう、今後の人生においても。
まぁ、写真撮影をしてエントリーが始まるのは六月に入ってからだ。
またその頃に君の意見を聞かせてくれればいいよ」
それだけを一気に言って、男性は私達の前から離れて行った。
「あの人、ずっと郁恵のことを見てたよ。
誰ふりかまわず声を掛けてるわけじゃない感じだから、郁恵のことを勧誘してたのかもね」
「そうなのかな……」
興味を抱くような事でもないのに、あの男性の雰囲気が気になって心のざわつきが離れなかった。
「でも態度は自身に満ち溢れてて微妙に上から目線だったね。
ホストみたいに女性相手でも話し慣れてる雰囲気で。隣にいる女性も美人だったよ。陽キャって感じでちょっと生きてる世界が違う感じよね」
見えない私にはまるで共感しようがないが、恵美ちゃんはさらにあのイケメンはあたしには全然興味なさそうだったなと口にした。
いずれにしても、ミスコンがあること自体、初めて知った私には参加するかの結論を出すことは出来なかった。
三人で顔を合わせた最初の機会から大学生になった私のことを尊敬してくれていて、応援してくれると言ってくれている。
私や静江さんよりも身長が高くて体格的にも頼りある雰囲気だけど、本人的にはあまり自分の体格を良く思っていないのか反応は薄く、触れて欲しくないようだった。
友人を作るのが上手でないのは私と同じで、自分から話しかけるのには勇気が必要で、人見知りをしてしまうようだ。
せっかくの縁だと思い、恵美ちゃんとは同じ講義を多く選んでゼミも一緒にすることにして、お互いの為にもなるからと、よくつるんで行動するようになった。
四月中旬に入り、履修登録も終わっていよいよ朝から夕方まで講義が続く日々に入った。
私はまだ一回生だからほとんどが共通科目で占めていて、外国語や保健体育も入っているから、ぎっしり一日講義で詰まっている印象だった。
昼休みに入り、一緒に同じ講義を受けていた恵美ちゃんと食堂で静江さんを入れて三人で昼食をする予定になっていたが、私は食堂に向かう途中で見知らぬ人に話しかけられた。
「そこのお二人さん、ちょっといいかい?」
軽快に声を掛けてきたのは男性だが、足音から二、三人で行動していることを感じた。
声のトーンからして一般的な見方では少し馴れ馴れしさを感じるような態度だった。
曖昧な表現になるが、相手のことが分からず不安な気持ちになった。
一人でいるときにも、特別用がないのに話しかけられることがある私は普段からあまり警戒心を表に出さないよう、気を付けて接している。
恵美ちゃんが隣にいるから、トラブルにはならないと思うけど、私は慎重に接することにした。
「はい、なんですか?」
明らかに私の方を見て話しかけられたように感じた私は即座に反応した。
「あぁ……すまないね、突然話しかけてしまって。
そこまで警戒しなくてもいいよ。
慶誠大のミスコン運営委員会の者で、今年も開催が決まったから紹介活動をしているんだよ」
微妙に丁寧な言い回しをして勧誘ではないのかと思った直後、私は男性に手を握られ、冊子のようなものを手渡された。
目の見えない私だから、それで相手のことを軽率だとすぐに決めつけてはならないけど、何かを訴えかけているようなオーラを感じた。
握られた感触は柔らかくて綺麗な手をしていて、大きくて逞しい力強い男性の手だった。
本気を出せば振り払うことは出来ないだろう、私はそれだけのことを自然と感じ取った。
「へぇ……誰でも出られるんですか?」
それほど興味を抱いている風ではなかったが、恵美ちゃんが会話に入ってくれた。
「そうだね、運営委員会の写真撮影に応じてくれれば誰でも出られるよ。
勝手に写真を撮ってエントリーさせたりはしないから、そこは安心してくれたまえ。
実際のところ、昔のように見世物になるような舞台上での催しはなく投票も学生だけが入れるウェブサイト上と専用冊子から行われるのみだから、あまり大ごとに考えなくてもいいよ」
男性は滑舌よく簡単に説明をして、同じようなことが私が持っている紙にも書いてあると言った。
「だってさ、郁恵。興味ある?」
当たり障りのない説明であまり感情は浮かばなかったが、恵美ちゃんに興味があるかと聞かれてしまったから、何か答えなければならないだろう。
私は少し考えて口を開いた。
「自分の外見に自信を持ったことがないので、ちょっとよく分からないです」
求められた回答が出来たか分からないけど、私は本心から言葉を発した。
ミスコンだというからにはしっかりと化粧やファッションの分かる綺麗な女性や愛嬌のある可愛い女性が着飾って出るのだろう。
ミスコン受賞者が多いと聞くテレビのアナウンサーをしている女性などは綺麗な人が多いと聞くが、私にはよく分からない。
それは、日頃しっかりスキンケアをして自分磨きを欠かさないような人であることは分かるが、人に好かれることと美人であるかどうかはまた別のことのような気がして、考えがはっきりとしなかった。
自分の外見のことなんてよく分からない。特に客観的な意見を聞く機会はほとんどない。だから、知り合いに褒められれば嬉しいけど、それ以上の感情を抱くことはほとんどこれまでの人生でなかった。
「そうか、それはいい機会かもしれないよ。
好奇の目で見られることは気分の良いことではないかもしれないが、自分のことを客観的に見てもらう機会はそう多くない。
自分のことを知っておくことは悪いことではないだろう、今後の人生においても。
まぁ、写真撮影をしてエントリーが始まるのは六月に入ってからだ。
またその頃に君の意見を聞かせてくれればいいよ」
それだけを一気に言って、男性は私達の前から離れて行った。
「あの人、ずっと郁恵のことを見てたよ。
誰ふりかまわず声を掛けてるわけじゃない感じだから、郁恵のことを勧誘してたのかもね」
「そうなのかな……」
興味を抱くような事でもないのに、あの男性の雰囲気が気になって心のざわつきが離れなかった。
「でも態度は自身に満ち溢れてて微妙に上から目線だったね。
ホストみたいに女性相手でも話し慣れてる雰囲気で。隣にいる女性も美人だったよ。陽キャって感じでちょっと生きてる世界が違う感じよね」
見えない私にはまるで共感しようがないが、恵美ちゃんはさらにあのイケメンはあたしには全然興味なさそうだったなと口にした。
いずれにしても、ミスコンがあること自体、初めて知った私には参加するかの結論を出すことは出来なかった。