気付けば日付が変わってしまい、放心状態のまま一人家に帰り、眠れない夜を過ごしながら考える。

 何故、郁恵はあんな危険な行為に及んだのか。
 一体、何が郁恵をあそこまで追い詰めていったのか。
 その謎が明らかになることのないまま、一日が終わった。

 夜間診療を受けた後、病院側の判断で精密検査が必要であると判断され別の病院に移送されることになった。
 移送先はかつて郁恵が長い入院生活を送っていたことがある病院。

 まだ郁恵が目覚めた姿を見ていない以上、安心は出来ない。
 面会時間の都合上、一旦家に帰ることになったが心にぽっかり穴が開いたようだった。

「郁恵は目を覚ますのでしょうか……?」

 俺は郁恵がストレッチャーに乗せられて別の病院まで移送されていく最中、担当医師に聞いた。

「心配いりませんよ、間もなく目覚めます。
 今は好きな人と会うために身支度をしてるんです。
 女性にはそういう時間が必要なんですよ」

 何か確信めいたものがある様子で担当していた女医はそう話して、郁恵を見送っていた。
 心配している俺を安心させようとしてくれていたのだろう、落ち着いて見守れるほど冷静にはなれないが、俺は医師の言葉に言い返すことなく素直に現実を受け止めた。
 詳しい病状の説明は移送先で聞いた方がいいと言われた以上、口を挟む理由もなくなってしまった。
 寒空の下、俺は郁恵が早く目覚めるのを願いながら家に帰った。

 次の日の朝、いつの間にか熟睡していたのか、面会開始時間が迫っていた。
 俺は洗面所で顔を洗い、鏡で自分の姿を確認すると、すぐさま身支度に入った。段々と髪が脱色してきている気がするが気にしている暇はなかった。

 入院時に必要なものをメモした紙を見ながら必要なものを揃える。
 ふと、郁恵が愛用しているぬいぐるみ達の姿が目に入るが、持っていくのは止めることにした。

「フェロッソ……お前が無事な姿も見に行ってやらねぇとな……」

 異様なほどに静かな部屋の中で俺は呟く。
 大きなケージの中でいつも寝ていたあいつがいないことがこんなにも胸を苦しくさせるとは思いもしなかった。

 俺はトレンチコートを羽織り、電気を消して戸締まりをすると、郁恵が入院している移送先の病院まで急いだ。