翌日、佳代に起こされた小夜はぼんやりとしていた体を起こして、牧場にある豚舎まで向かいました。

 発育に合わせてスペースが分けられた豚舎を回り、小夜は佳代からお仕事を教わります。思っていたよりもたくさんの豚が飼育されていることに驚く小夜は体力のいるお仕事を一生懸命に日が落ちるまで頑張りました。

 そして、小夜は佳代から子豚たちへの去勢の仕方を教わり、鋭利なカミソリを持たされると、嫌がる子豚たちに泣きながら去勢手術を施していきました。 

「お仕事をしなければご飯はないわよ。あたしも最初は嫌だったけど、生きていくためよ。慣れていきなさい」

 ざんこくな行為をやらされ泣いてしまう小夜に佳代は言いました。
 ここでの生活に慣れてしまった佳代はこの牧場で何をしなければいけないか、よく分かっていたのです。

「子豚さん……あなたはこのままでいいの?
 このままエサを食べて運動して、眠る毎日を送っていたらいずれ人間に食べられてしまうわ。強くならなくていいの?」

 毎日をこの牧場で過ごし、少しずつ、豚舎での仕事に慣れてきた小夜は言いました。
 まだ小さい子豚を抱きかかえる小夜にとって、子豚はかわいくとてもせんさいな生き物で、とてもはかない命であることが自然と分かってしまったのです。

「小夜、豚に話しかけてもムダよ。
 豚は成長してもおおきくなるばかりでのろまで地面に生えた草ばかり食べる動物なの。それに、人間に食べてもらえるからこうして恵まれた環境で暮らすことができるのよ。それを分かって? 小夜」

「そんなの……悲しいよ。
 こんなにかわいいのに、どうしてこんな生き方しかできないの……」

「目が見えないから、あなたはかわいいなんて甘いことを言えるのよ。
 小夜も豚に話しかけてばかりいないで、小屋の掃除をしなさい」

 佳代は小夜の言葉に胸が苦しくなりながら言いました。
 やりたくないこともやらなければならない、それがこの牧場のお仕事だと教えられてきたのは佳代も同じでした。
 小夜の言葉は必死に佳代が考えないようにしてきたことだったのです。


 小夜が孤島にやって来てから二週間が経ちました。
 この島での生活に少しずつ慣れてきた小夜は、この牧場が豊かな自然にめぐまれ、多くの動物たちがいることを知りました。

 そこには多くの子どもたちが働いていて、動物たちの飼育以外にもさまざまな仕事があり、自分たちが食べるための畑仕事を頑張っているグループもいることを知りました。

 ニワトリや牛たちも暮らす牧場はとても広く広大な土地をしていて、さまざまな動物たちと触れ合う中で、佳代とも仲良くなり、小夜は心動かされていったのです。

 (『空を飛べたら』6ー18ページ一部抜粋)