『お前の中の俺が、
明るくて、ちょっとガサツで、空気読めないバカでいい奴でいるなら、それでいいわ』


意味の分からなかったあの言葉を、
今になってようやく理解した。

14時から撤収作業に入る。裏方に徹してくれていた女子に、俺のカツラとティアラを丸投げにする。

びっくりした顔で受け取る。普段の俺なら、一声か二声かけていくけど、
そんな事、どうでもよかった。

ドレスは長いから嫌いだ。シンデレラだってきっとこんな感じでもどかしかったのかもしれない。

「ごめんなさい!通して!」

人と人の隙間を切り分けて、息を上げながら大声を出すたび、気管が閉まる。
酸素が足りない。心臓が悲鳴を上げるように震える。

サッカーをやめてからしばらく経つ。走り方を覚えていても、体自身はついていかなかった。

でも、「そんなもんかよ」とあの時の一輝の、声変わりしてない時の声が、足を止めさせてくれなかった。

ワックスがまだ残る廊下は滑りやすくて、上履きが擦れるたびに舌打ちをしたくなる。

俺は、どこに向かってるんだろう。

ずっと分からなかった。

みんなが王子様って言ってくるら、流されるまま王子様になったけど、本当にそうなのか分からなかった。ただ、広い海でクラゲとして生きているビニール袋だと、いつか気がついてしまうんじゃないかと怖かった。

今はちがう。
俺は自分自身として、田島 一輝に会いに行く。
田島 一輝が今の俺のゴールだと、信じたかった。