(さて、今年は何を題材に講座を開こうか)

蘭教授は、自身のデスクから見える外の景色をぼんやりと眺めながら、新年度を迎える学び舎のそわそわとした空気を感じていた。

「愛され講座」から半年───。

卒論に悲鳴を上げていた4回生は、無事全員カップル成立し卒業することができた。これからの道も困難が待ち受けているだろうが、彼等ならきっと乗り越えられると蘭教授は太鼓判を押している。

体格差カップリングの実地検証に行き詰っていた3回生もなんとか課題をクリアし、想いを通じ合わせることができた。細身攻め×ガチムチ受け、ガチムチ×ガチムチ、高身長攻め×ちびっこ受け。彼等なりに随分悩みもしたが、それを解決していく力に教授は感動を覚えていた。

想いの一方通行が多く見られた2回生だが、今年は彼等に「リバ」を体験してもらおうと教授は考えている。双方の気持ち、身体の変化、そういったものを理解しあってこそのBLこそ尊し。無理のないよう、彼等の気持ちにしっかりと寄り添いながら指導するべく綿密に行動計画表を作成中だ。

そして。
新2回生 西園寺君彦 
新2回生 坂上孝介
     
受講者リストにあるその名前をゆっくりなぞると、蘭教授は微笑んだ。

(期待しているよ、相模君…間違えた坂上君。よくぞ今年も我があららぎゼミへ来てくれた)

──私の後継者となるべき愛され逸材。


そこへ慌てて駆け込むゼミ生。

「教授、お客様がお見えです。河〇塾の講師の方とかで」
「あ、教授。こちらにもお迎えの方がいらしてますよ、お兄様だそうです」
「ああ大丈夫だ。問題ない」

(事務室より内線電話)
『蘭教授、アラブから国際電話が入っております』
『分かった』

「教授、企業から打診されていたセミナーの御返事はどうしますか。社長と専務直々にメールが来ていますけど」
「あ、その企業の担当営業マンが菓子折り持ってきてましたね、そういや」
「後で返信しておく。菓子折りは皆で食べてくれ」
「やった!」

そう、彼こそが総愛されの権威、蘭一真(あららぎ かずま)である。

終わり