食事会当日。
母さんは美容院に行っておめかしするらしく、俺とは先方から言われた待ち合わせ場所で合流する事になった。
待ち合わせは17時に、ロイヤルホテルロビーだった。
俺は少し早めに到着し、ロイヤルホテルのロビーで新館と旧館に分かれているのに気付いた。入口に立っていたホテルの人に、母さんからのメールを見せると
「ロイヤルホテルロビーと書いてある場合、このロビーで間違い無いかと思いますよ」
丁寧に回答頂き、俺はお礼を伝えてロビーに入って絶句した。
薄暗いホテルのロビーの真ん中には大きなグランドピアノが置かれていて、綺麗に着飾った若い女性がクラシックか何かのピアノ曲を奏でている。
ロビーの奥にBarが作られていて、大人の雰囲気の人達がピアノの音色に耳を傾けながらグラスを傾けているのが目に入って来た。
俺は入り口が見える位置にあるソファーに座り、心細い気持ちで母さんの到着を今か今かと待ち侘びていた。
時計と入り口を交互に見ながら、ホテルの入り口が開くたびに視線を送る。
落ち着いた空気の流れる高級ホテルのロビーで、俺は所在なさげに小さくなって座っていた。その時、スマホの着信音が鳴り響いた。
俺は折角のピアノの音色を邪魔しないように、慌てて外に飛び出した。
着信を見ると、『母さん』の文字だ。
「もしもし」
『あおちゃん! 今、何処に居るの?』
慌てる母さんの声に
「え? ホテルのロビーだけど? それより、母さんこそ何処に居るんだよ」
俺は思わず不機嫌な声で答えてしまう。
すると母さんのスマホから
『あの……ロイヤルホテル新館と伝えましたか?』
落ち着いた感じの声が聞こえて来た。
『え?』
『待ち合わせ場所を連絡した際、新館と書かないと本館に案内されてしまうと説明した筈でしたが……』
恐らく再婚相手なのだろう。
大人の落ち着いた声が聞こえて来て
『やはり、LIMEでも送った方が良かったですね。私の落ち度です。すみません』
恐らく……いや、絶対に母さんの落ち度だろうが、決して攻める事もせずに母さんに謝罪してから
『スマホをお借りしてもよろしいですか?』
スマホ越しでもめちゃくちゃイケボの声に、母さんの再婚相手はもしかして凄いイケメンなんじゃないだろうか?と思い始めた。
『もしもし、葵様ですか?』
俺の心配をしているのが伝わる声に、優しい人なのかもしれないと思いながら
「はい。待ち合わせに遅れてしまって、すみません」
例え母さんの落ち度でも、新館と本館があると気付いた時点で確認しなかった俺の落ち度でもある。
そう思っていると
『私の説明が悪く、お待たせしてしまいすみません。今からお迎えに行きますので、そのままロビーでお待ちいただけますか?』
「え……、俺がそっちに行きますよ」
俺一人対三人なら、数が多い方に行くのが正解だろう。