「はぁ? 京子さんが再婚?」
 翌日の昼休み。
幼馴染みの赤地彰三に夕べの出来事を相談したら、やっぱり驚いて冒頭の雄叫びを上げた。
 うちの母さんは夢見る少女がそのまま大人になったような人で、いつも俺や彰三。
そして彰三の兄である蒼ちゃんに
「神崎君とは運命の出会いで、あんなに誰かを好きになる事は二度とない」
と豪語していたから、彰三にとっても寝耳に水なわけだ。
 まさに昨日、俺がしたかった反応をする彰三に「うんうん、わかるよ」と、心の中で呟きながら頷いていていると
「じゃあ、家とか学校はどうなるんだ?」
心配そうに聞かれて
「まだ何も決まってないから分からないけど、どうやら相手の家もそんなに遠くはないらしいんだよね」
そう答えながら、母さんとの会話を思い出す。
夕飯の時に聞いた話では、再婚相手は母さんより十歳年上で、母さんが働いている会社の取引先の社長らしい。
相手がお茶出しをした母さんに一目惚れして、アタックされたのだとか。
どんなに冷たくあしらっても堪えず、一度だけで良いから食事をして欲しいと言われて食事をしたら、お互いに伴侶を亡くしていて、共に片親で男の子を育てて来たと知って意気投合。
しかし相手の人は仕事にかまけていて、俺より二つ年上の息子さんとの間に溝が出来しまったらしい。
どうにか溝を埋めたいと相談されているうちに、絆されてしまったのだとか。
「あおちゃんも、ちょうどお兄ちゃんを欲しがっていたものね」
と笑顔で言われたが、俺が欲しがったのは「お兄ちゃん」では無く、彰三の兄である「蒼ちゃん」が欲しかったんだけどな……。
母さんの短絡的な考え方に、俺はいつも振り回されているような気がする。
そんな昨日の会話を思い出しながら
「そう言えば、二個上に息子が居るらしい」
ポツリと呟いた俺に、彰三が明らかに嫌そうな顔をして
「おい、大丈夫なのか? お前、見た目が可愛いから心配だよ」
と言われてしまい、『おいおい、俺は女子じゃねぇぞ』と思わず心の中で呟いた。
本気で心配されて言われてしまったので怒れなかったが、俺のコンプレックスを言われて少々ムッとしてしまう。
 そう。俺は病弱な親父と、健康体だが華奢な母親の遺伝子を引き継ぎ、どうやら容姿は可愛い系なんだそうだ。
身長だって、俺の予想では一七八cmはいける筈だったのに、母さんとほぼ同じ一六五cmしかない。
だが、しかし! 成長期はこれからだ。
高校を卒業する頃までには、伸びていると信じている。
親父は身体が弱かった事もあり、身長が一七〇cmだったらしいが、母さんが一六五cmで女性にしては大きい方だから、まだ希望はある……と思っている。
 ちなみに親父は写真で見る限りだが、非常に中性的な顔をしていた。
母さんと並んで写っている写真なんて、「姉妹ですか?」と聞きたくなる程に良く似ている。
だけどさ……コンプレックスではあるけれど、両親の遺伝子をしっかりと受け継いでいるこの容姿は誇りでもあるんだ。
それが例え、女顔だとか言われても……だ。
「良いか葵。両家の顔合わせがあっても、相手の家族にニコリとでも笑うんじゃねぇぞ。お前の笑顔は、兄貴曰く『天使の笑顔』らしいからな」
お弁当を食べながら真剣に訴える彰三に苦笑いを返し、顔合わせかぁ~とぼんやり考えていた。
 今までずっと母さんと二人三脚で生きて来たから、知らない人との新しい生活っていうのを考えると不安しかない。
「もし、新しい親父や兄貴と気が合わないなら、いつでもうちに来れば良い。葵だって、俺や兄貴と一緒の方が気は楽だろう?」
彰三がそう言って胸をたたく姿を見て、俺は笑顔を返した。
俺には、いつだって本気で俺を心配してくれる幼馴染みの彰三と、その兄貴である蒼ちゃんが居てくれる。
そう思うだけで、なんだか不安だった気持ちが和らいだような気がした。
「彰三、ありがとう」
「おう! 俺も兄貴も、いつだってお前の味方だからな」
そう言って俺の頭をクシャクシャっと撫でる彰三に
「頭撫でるな!」
とツッコミを入れながら、この幼馴染みの兄弟に救われているな~と、心から感謝していた。