友達なのだと……そう思っていたから。
誰が見ても美しいと評される蒼ちゃんと、肩を並べて張り合える人なんて早々いないと思う。
学校で見掛ける先輩と蒼ちゃんは、本当にお似合いのカップルだ。
並んで歩く姿は自然で、まさに絵に描いたような二人。
そこに割って入れる人は、余程の自信家か身の程知らずだろう。
 二人が並んで歩く姿を思い出し、気持ちが沈んで行く。
この胸の痛みは、兄のように慕っていた蒼ちゃんを取られたからだと……何度も自分に言い聞かせて来た。
でも、大好きな筈の蒼ちゃんに対してどす黒い感情を持ってしまった時に、自分の感情に気が付いてしまったのだ。

 先輩との出会いは、なんとも最悪な出会いだった。
俺にとって蒼ちゃんは、兄のようであり初恋の人だった。
親父を亡くし、そのまま神崎の家にお世話になるわけにはいかないと、母さんが神崎家を出ると話を出した時、神崎のじいちゃんから親父名義だった今住んでいるマンションを譲り受けた。
最初は全てを拒否していた母さんだったが、神崎家の援助を受けないなら俺を養子として引き取ると言われてしまったらしい。
じいちゃんからの提案を受け入れた母さんは、俺が小学校に上がるまでは、働きに出ずに俺の面倒のみを見るように言われたらしい。
もちろん、その間の生活費は援助してもらっていたのだそうだ。
(とはいえ、小学校に上がった後も、俺の教育費として結構な額が銀行口座に入金されているのだとか)
親父名義のマンションに引っ越して間もなく、母さんは身体の弱い蒼ちゃんを抱えて困っていた赤地のおばさんと出会ったらしい。。
今や健康優良児の俺ではあるが、幼い頃は身体が弱く、しょっちゅう熱を出していたらしい。
通っていた小児科で顔を合わせているうちに仲良くなった赤地のおばさんが、蒼ちゃんの体が弱くて、保育園に預けても直ぐに呼び出されて仕事がクビになりそうだとぼやいていたのを聞いて、母さんが蒼ちゃんを預かると名乗り出たんだとか。
そして俺と蒼ちゃんは、赤地のおばさんが働いている間は一緒に過ごすようになった。
子供の頃の蒼ちゃんはそれはそれは本当に可愛らしくて、まさに天使と呼ぶに相応しいほどに可愛らしい男の子だった。
そんな蒼ちゃんは、元々の性格がおとなしい上に、下に彰三が居るからなのか、自分より年下の子の面倒を見るのも上手だったらしい。
母さんが「蒼ちゃんを預かって、逆に私が楽しちゃったのよね」と話していた程だ。
俺に本を読んで聞かせてくれたり、駄々をこねても怒らずに優しく抱きしめてくれる蒼ちゃん。
そんな環境で育った俺は、見事、蒼ちゃん大好きっ子に育った。
優しくて温かくて、天使のように可愛らしい蒼ちゃん。
でも、どんなに大好きでも、本当の兄では無いわけで……。
夕方になると、赤地のおばさんが保育園から彰三を引き取った後、我が家に蒼ちゃんを迎えに来るのが本当に嫌だった。
当たり前のように、蒼ちゃんに手を引かれて歩く彰三がうらやましかった。
だけど、泣いてゴネたら蒼ちゃんがもう来てくれなくなってしまいそうで、お迎えが来る度に母さんの後ろに隠れて、必死に泣くのを堪えていた。
玄関が閉まり、蒼ちゃん達が帰ってしまうと、俺はベランダから蒼ちゃん達家族が帰る姿を泣きながら見送っていた。
我ながら、執着し過ぎで今思うと恥ずかしい。
でも蒼ちゃんはそんな俺の事を分かってくれていて、家に入る前に必ずうちのマンションを見上げて「バイバイ」と手を振ってくれていたんだ。
天使のように可愛くて、優しい蒼ちゃんが本当に大好きだった。