しょんぼりと小さくなっていると
「あぁ……蒼ちゃんとは、彼の事か」
秋月先輩のお父さんが思い出したように呟くと
「彼は本当に……綺麗な男の子だよね」
噛み締めるように呟く秋月先輩のお父さんに視線を向けると
「あぁ、すまないね。実は彼にモデルを頼んだのは、うちの会社なんだよ。あの結婚式場はうちの会社の式場でね。撮影当日に来たモデルが、宣材写真と全然違うので降板してもらったんだよ。代役を見つけるにも……と頭を抱えていた時に、何度か家に泊まりに来ていた彼を思い出して、翔に頼み込んでモデルを引き受けてもらったんだ」
そう言われて、だから田中さんが花婿役だったのだと納得した。
「俺、あのポスターを額に入れて部屋に飾ってあるんですよ」
「あおちゃん、蒼ちゃんが大好きだからね~」
俺の言葉に被せるように、母さんが呆れたように呟いた。
「って事は、田中さんって元モデルさんなんですね!」
思わずキラキラした目で田中さんを見ると
「まぁ……そうですね。学生時代だけの約束でしたが」
未練も興味も無いという感じで答える田中さんに
「陽一といい、蒼佑君といい。どうして、そういう仕事が向いている人が嫌がるのか私には理解し難いな」
深い溜め息を吐きながら呟く先輩のお父さん。
俺が疑問の視線を母さんに向けると
「あぁ……ごめんね、葵君。私の会社は芸能事務所もやっていてね。田中はうちの事務所のトップモデルだったから、本当に残念なのだよ」
と、本当に残念そうに秋月先輩のお父さんが呟いた。
「私は目立つ仕事より、今のように社長秘書をしている方が性に合っていますので」
涼しい顔をして答える田中さんに、思わず尊敬の眼差しを送ってしまう。
すると田中さんが思い出したように
「確か……京子様も、元モデルですよね?」
と、母さんに話の矛先を持って行った。
突然、自分の事を話に振られて母さんが口にしたワインを吹き出しそうになっていた。
「何で私の話題? 私は、単なる読者モデルだから。それに、神崎君と出会って直ぐ辞めたから……」
悲しそうに笑って答えた母さん。
でも、俺的にはビックリだった。
「え! 母さんって読モだったの?」
「少しの間だけよ。この話題はもう止めましょう! 恥ずかしい」
真っ赤になる母さんに、俺は母さんの意外な過去を知ってしまった衝撃が凄かった。
「何か凄いな~。俺だけかな?一般ピープルなの」
目の前に並んでいる美しい創作料理を食べながら呟くと
「え? 俺も一緒だろう?」
目の前の秋月先輩が慌てて俺側だと主張して来た。
俺が目を据わらせ
「何を言っているんですか。秋月先輩は、学校で女子のアイドルじゃないですか」
と呟くと
「え! アイドルは蒼佑だろう?」
なんて言っている。
これだから、無自覚な人は困るんだよ。
「先輩もですよ。先輩の袴姿の写真、高値で取引されているのを知らないのですか?」
「え? そうなの?」
本気で驚く先輩に、俺が深い溜め息を吐き出すと
「へぇ……翔が? 田中は知っていたのか?」
先輩のお父さんが驚いた顔をして田中さんに聞くと、田中さんは苦笑いしながら
「まぁ……人伝ではありますが」
と答えた。
「中学生までは浮いた話を耳にしたものだが、高校に入ってから全く聞かなくなったから知らなかったよ」
そう言って微笑む先輩のお父さんに
(そりゃ~、ライバルが蒼ちゃんじゃねぇ~)
と心の中で呟いた。
俺も同じ高校に入学するまでは、先輩と蒼ちゃんがそういう関係だなんて知らなかった。