晴太がスポーツドリンクを買いに立ち上がっている間、柚月は黙ってオレンジジュースを飲んでいた。どうも晴太が戻るのを待ってくれているらしい。少し分かりづらいところはあるけれど、決して嫌なやつなんかではないことを晴太は確信する。

「晴太はサッカー部なのに、どうして学校に来ているんだ」
 晴太が席に戻りスポーツドリンクを一気飲みするのを待ってから、今度は柚月の方から話を切り出した。どうやら名前も覚えてくれたようだ。
「サッカー部が外部練習なの、知ってたんだ?」
「保健室の先生から聞いた」
「そっか」
 少し沈黙。

「おれさあ、サッカー部辞めようと思っててさ」
 どうしてこんな話を柚月にしようと思ったのか。晴太の口は、仕舞いこんでいた筈の気持ちをさらけ出す。なにか綺麗なものに引き寄せられていくような感覚ではあった。だとしてもこんな話急にされても柚月は困るだけ──、
「だから学校に残ってたのか」
「へ?」
 柚月がボールを投げ返してきたことにびっくりして、晴太は思わず空気混じりの変な声を上げた。

「だから外部練習に行かなかったんだ、って言った」
「あ、う、うん。そう。清沢は今日も図書室?」
「柚月」
「へ?」
 二度目の変な声が出る。
「俺も柚月でいいよ。変だろ、こっちだけ苗字なんて」
「うん、じゃあ」
「俺が図書室にいるって知ってたんだ」
 柚月本人は、自分がちょっとした噂になっていたなんて知る由も無い。
「ええっと、その、たまたまボール片付けてたら見えた」
「そうか」
「毎日通ってるのか?」
「ああ。演劇部から、脚本を書いてくれと頼まれた」
「凄ぇじゃん!」
「別に凄くはないよ」
「謙遜するなよ」
「謙遜じゃねぇよ」

 口をきゅっと結んでいる柚月の怒ったような表情は、どことなく照れ隠しののようにも見えて、晴太の心は浮き立つ。勿体ないことをした。もっと早くに柚月と仲良くなっておけばもっと沢山話せたのに。
 晴太は柚月に関する色々なことを聞いてみたいと思う。多分、不愛想で言葉少なにしか語ってはくれないのだろうけれど。

「柚月は、本を書く人になりたいのか?」