「入江君。それじゃあ悪いけど、柚くんのことよろしくね」
「こちらこそ、清沢には勉強でお世話になってますから」
「あの子はね、勉強だけは取り柄なのよ」
「他にもありますよ。才能だらけのやつです、清沢は」
「そう言ってもらえる友達に会えて良かったわ。じゃあ行ってきます。おやつは冷蔵庫にあるから」
「はい。ありがとうございます」
 トントントン、階段を上る音。柚月の部屋にだれかが入ってくる。柚月はそれがだれだかもちろん知っているけれど、布団を頭から頭寝たふりを決め込む。
 
「おいゆず、ゆーず。起きろってば、何寝てんだ」
「今日は日曜日だぞ。てか何で他人の部屋に勝手に入って来てるんだ。そして伯母さんに調子良く挨拶しているのは何故だ」
「図書館で一緒に勉強するって約束しただろ。伯母さん、もうパートへ出かけたぞ。つか、聞こえてんじゃん」
 
 団子になっている柚月の布団を、晴太が思い切り剥いだ。覗き込んでくる晴太の、柚月に合わせるピントが近い。柚月はその視線を感じて顔を赤らめる。ふたりに生まれた感情はまだ始まったばかりだ。
「あと五分だけ寝かせろ」
 剥がされた布団を取り返し、柚月は布団に隠れた。
「五分だけだぞ」

 五分経ったら、ふたりで世界におはようを言いに行こう。

 終