柚月が自分から話してくれたことが嬉しかった。と同時に、柚月が小学校の頃から感じてきた生きづらさみたいなものが伝わってきて、それは晴太にはないもので、そんな風に思いながら生きてきた柚月に胸が苦しくなる。
 おれなら。晴太は思った。おれなら、柚月がだれにも言えないでいる夢や、やってみたいことを応援出来るんじゃないだろうか。だっておれも。

「……分かるよ。おれもそうだから」
 晴太の言葉に、柚月もまた驚いた表情を見せた。
「え、晴太……?」
「両親が離婚した時、サッカーを続けたいから青南高校に行きたいって言って、父さんがこっちに残ったんだ。離婚したっていう負い目があるから、父さんはおれの希望を聞いてくれたんだと思う」
「そうだったんだ」
「だから、今更サッカーじゃなくて写真がやりたいなんて言いづらくてさ」
「だから迷ってたのか」
「うん。内緒で兄貴と会ってたのも面白くないだろうしさ、きっと」
「はは、俺たち、いろいろと面倒くせえな」
「な」
 柚月の言葉に頷き、晴太も笑う。お互いの本心を口に出せば、何だかすっきりした気分だ。

 気の抜けたコーラのグラスは、ひんやりと汗をかいている。中の氷がカラン、と音を立てた。
「おかわり、いるよな。持ってくるよ」
 立ち上がった晴太の腕を、柚月が軽く掴む。部屋の中はエアコンが効いているとはいえ、外はまだまだ蒸し暑い夏の陽気だ。なのに柚月の指はひんやりとしていて、晴太はどきっとした。

「晴太も俺もさ」
 晴太を見上げるその目は、強い意志の塊のように見えた。あの時、図書室で見た横顔の印象と同じ、強い心だ。
「お互い言ったからには、やるしかねえよな」
 ニヤリと笑みを浮かべる柚月、やっぱり写真に撮りてぇな。
「そうだな」
 晴太もニヤリと笑った。

 まずは進路相談だな。柚月の言葉に後押しされた晴太は、帰宅した父親に思い切って大学名を書き込んだ用紙を見せた。
「お前の偏差値じゃ厳しいだろう」
「頑張るよ。だからこの大学に行かせてほしい。今までサッカーにたくさんお金掛けさせてごめん」
「分かった。お前が行くと決めたんなら、受験勉強頑張れ」
「うん」

 部屋に戻ると、晴太は柚月に教わったIDへメッセージを送った。
『言えた。柚月は?』
 すぐに柚月から返信が届く。
『俺も言った』
 晴太は、小さくガッツポーズを決めた。
 やっとスタートラインに立てた。隣にいるのは、もちろん柚月だ。柚月のおかげで強くなれる自分がいる。