「この写真、俺にくんない?」
「へ?」
「気に入った」
この空。色や空気。柚月の脳裏に新しい脚本の構想が浮かび上がり、急に喉の渇きと空腹を覚える。心が何かを欲している感じだ。
柚月はカメラを晴太に押し付けると、乾いた喉をコーラで潤し、持ってきたドーナツにかぶりついた。その様子を晴太は呆気にとられた顔で見つめている。
「何だよ」
「いや、柚月見てると面白ぇなぁって」
「は?」
「何かさぁ、見てて飽きねぇんだよな」
「馬鹿にしてんの?」
「してねぇよ」
晴太は小さい子供のようにニヤニヤと嬉しそうにしながら、ドーナツに手を伸ばしている。何なんだ。俺なんかのどこが面白いってんだ。面白いことなんてひとつも言えないぞ、俺。
「柚月、今なんかいいこと思いついただろ」
口の中のドーナツをコーラで飲み下しながら、晴太が言う。柚月の表情から何かを読み取ったとでも言いたいらしい。
柚くんて何を考えているのか分からないのよねぇと伯母さんお墨付きの不愛想は、柚月本人も自覚している。俺の考えていることが分かるなんて、珍しいやつもいたもんだ。
「おれも今、いいこと思いついた」
晴太が続けた。
「柚月の写真、撮ってもいい?」
今度は柚月が呆気に取られる番だ。
「は? お前なあ。男なんか撮って何が楽しいんだよ。もっと綺麗な景色とか可愛い女の子とか」
「柚月を撮りたい」
構図とかシチュエーションとか浮かんできた。やべ、なんか楽しくなってきた。晴太はそう言うと、カメラのレンズをふいに柚月の方へ向けた。
「あ、おい。こら」
「柚月、口の周りにドーナツの粉付いてんぞ」
「ウソ、マジ。ちょ、撮んなっつの」
「さっきの空の写真、柚月にやるからさ。あれだろ、何か書きたいもの思い浮かんだんだろ」
晴太に言い当てられて悔しい気もするけれど、同時に嬉しさも込み上げてきて、柚月の胸の奥はきゅっと反応した。自分のことを分かってくれるやつがいる。
「次のさ」
「うん」
「演劇部の脚本」
「うん」
「空を飛びたい少年の話……とか」
「いいじゃん」
「まだイメージしか湧いてねえけど」
「あの写真でなんか湧きそう?」
「うん」
「そっか」
おお、おれの撮った写真が脚本の題材になるなんてな、と晴太は嬉しそうだ。
──やっぱり晴太は、他の友達とは違う気がする。もっと自分のことを分かってもらいたいという感情に駆られた。
「俺……さ。両親がずっと海外にいて、伯母さん家に居候してんの」
柚月の告白に、晴太は一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに柚月へと向き直った。まるで柚月がそれを話すのを待っていたかのように。
可哀そうでも同情でもない、晴太の真っすぐな視線に励まされるように、柚月は言葉を続けた。
「昔から周りの同級生と話が合わなくて。運動神経がめちゃくちゃ悪いのもあって本ばっかり読むようになって。心配した伯母さんが、青南高校を探してきてくれたんだ
「ああ、ここ有名な作家が卒業してるもんな」
「そ。両親が日本に戻ることは殆どないから、伯母さんたちには世話になってばかりでさ。あんまり好き勝手も出来ねえんだよな」
「……分かるよ。おれもそうだから」
「え、晴太……?」
「へ?」
「気に入った」
この空。色や空気。柚月の脳裏に新しい脚本の構想が浮かび上がり、急に喉の渇きと空腹を覚える。心が何かを欲している感じだ。
柚月はカメラを晴太に押し付けると、乾いた喉をコーラで潤し、持ってきたドーナツにかぶりついた。その様子を晴太は呆気にとられた顔で見つめている。
「何だよ」
「いや、柚月見てると面白ぇなぁって」
「は?」
「何かさぁ、見てて飽きねぇんだよな」
「馬鹿にしてんの?」
「してねぇよ」
晴太は小さい子供のようにニヤニヤと嬉しそうにしながら、ドーナツに手を伸ばしている。何なんだ。俺なんかのどこが面白いってんだ。面白いことなんてひとつも言えないぞ、俺。
「柚月、今なんかいいこと思いついただろ」
口の中のドーナツをコーラで飲み下しながら、晴太が言う。柚月の表情から何かを読み取ったとでも言いたいらしい。
柚くんて何を考えているのか分からないのよねぇと伯母さんお墨付きの不愛想は、柚月本人も自覚している。俺の考えていることが分かるなんて、珍しいやつもいたもんだ。
「おれも今、いいこと思いついた」
晴太が続けた。
「柚月の写真、撮ってもいい?」
今度は柚月が呆気に取られる番だ。
「は? お前なあ。男なんか撮って何が楽しいんだよ。もっと綺麗な景色とか可愛い女の子とか」
「柚月を撮りたい」
構図とかシチュエーションとか浮かんできた。やべ、なんか楽しくなってきた。晴太はそう言うと、カメラのレンズをふいに柚月の方へ向けた。
「あ、おい。こら」
「柚月、口の周りにドーナツの粉付いてんぞ」
「ウソ、マジ。ちょ、撮んなっつの」
「さっきの空の写真、柚月にやるからさ。あれだろ、何か書きたいもの思い浮かんだんだろ」
晴太に言い当てられて悔しい気もするけれど、同時に嬉しさも込み上げてきて、柚月の胸の奥はきゅっと反応した。自分のことを分かってくれるやつがいる。
「次のさ」
「うん」
「演劇部の脚本」
「うん」
「空を飛びたい少年の話……とか」
「いいじゃん」
「まだイメージしか湧いてねえけど」
「あの写真でなんか湧きそう?」
「うん」
「そっか」
おお、おれの撮った写真が脚本の題材になるなんてな、と晴太は嬉しそうだ。
──やっぱり晴太は、他の友達とは違う気がする。もっと自分のことを分かってもらいたいという感情に駆られた。
「俺……さ。両親がずっと海外にいて、伯母さん家に居候してんの」
柚月の告白に、晴太は一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに柚月へと向き直った。まるで柚月がそれを話すのを待っていたかのように。
可哀そうでも同情でもない、晴太の真っすぐな視線に励まされるように、柚月は言葉を続けた。
「昔から周りの同級生と話が合わなくて。運動神経がめちゃくちゃ悪いのもあって本ばっかり読むようになって。心配した伯母さんが、青南高校を探してきてくれたんだ
「ああ、ここ有名な作家が卒業してるもんな」
「そ。両親が日本に戻ることは殆どないから、伯母さんたちには世話になってばかりでさ。あんまり好き勝手も出来ねえんだよな」
「……分かるよ。おれもそうだから」
「え、晴太……?」