「お邪魔します……」
「あ、だれもいないから気ぃ使わなくていいよ全然」
「そう、なのか?」
「うん。おれん家、父さんと二人暮らしだから」
 さり気なく言ったつもりだけれど、上手く言えただろうか。晴太は努めて明るい口調を心掛ける。
 柚月の家も何か訳ありのようだったっけ。そう考えて、すぐに晴太は小さく首を振った。それは柚月が話したくなったら話せばいい。おれが気にすることじゃない。

「おれの部屋、突き当たりのドアんとこ。飲み物持ってくから、先行ってて」
「おう」
 晴太の部屋へ向かう柚月の背中を視線で追いかけると、晴太は台所に行き、二人分のグラスにコーラを注いだ。
 
 柚月が、おれの部屋へ遊びに来ている。晴太の心は、小さい子供のようにはしゃいでいた。
 高二で彼女がいるやつはたくさん周りにいるけれど、晴太はそういった付き合いに興味はなかった。サッカーをしているか男友達とつるむか。ちょっと前までは、それで良かったはずなのに。

 夏休み、図書室で柚月の横顔を見たあの日から、柚月に対する感情はどんどん膨らんでいっている。
 その感情に何という名前が付くのか、晴太は少しずつではあるけれど、気付き始めていた。気付き始めて、それは口に出したらだめなやつだと思う。せっかく柚月と仲良くなれたのが台無しだ。
 はしゃぐ心を制するように、晴太はグラスを持つ手に力を込めた。

「柚月、コーラでいいか? てかコーラしかない」
「いいよコーラで」
 部屋に入ると、柚月が興味深そうに本棚の本を見つめていた。大した本は置いていない。サッカー読本と、サッカーマガジン。あるだけましな程度の参考書、そして兄の置いて行った写真入門の本や写真集が数冊。

「へえ、たくさん持ってるじゃん」
「兄貴がさ、大学で写真部に入ってて。で、お下がり」

 これな。本棚の空いているところに置かれたデジタルカメラを手に取って、柚月の手に乗せた。
「お、おい。こんな高価なもの、簡単に渡してくるなよ。怖えな」
「大丈夫だよ。古いやつだし別に」
「それだって大事なもんだろ」
 柚月は恐る恐るといった感じで、カメラを眺めている。初めて触れるものみたいに、珍しそうに、だんだん楽しそうに。
 そんな柚月の、少しずつ表情の変わる横顔に思わず見とれる晴太だった。

「おい、おい晴太」
「ん、あ、何?」
「これ、どうやって画像見んの」
「ああ、えっとね」
 カメラに入れっぱなしのデータを呼び出すと、画面をフリックして見せる。
「何枚撮ったかなぁ。そろそろパソコンに移さないと」
 サッカー部の活動内容を撮って以降は、バックアップを取っていないのを思い出す。
「データ消えたらまずいだろ、早く移せよ」
「まずいもんなんてないよ。どれも適当に撮ったやつだし」
「これなんか」
 柚月が、表示させた画像をずい、と晴太の目の前に突き付けてきた。
「これなんか、いいと思うけど」

 早朝、学校へ行く前に何気なく撮った空の写真だ。