ー20分前

 騒騒(そうぞう)しいオフィスで黙々と仕事をする。

 次から次にやることは積み重なっていくが、忙しい方が時間の流れが早いから苦ではない。誰かに必要とされている心地良さがここにはある。

 オフィス内の張り詰めた空気が一気に緩む。時計の針が13:00を知らせた。昼休みの時間だ。

 大きく伸びをしたその時、スマホが震えた。画面を見ると。

【夏空の塾】

「…またか。」
電話に出ると、
夏空(そら)さんが塾に来ておりませんので、連絡いたしました。』
謝りながら、急いで職場近くの駐輪場に向かう。これで5度目だ。君が塾の夏期講習をサボるのは。

 途中にあった自動販売機で天然水のボタンを探す。
「なんで、サボるかな…。反抗期?はぁ…、私の10万円。」

 塾に行かなくても大丈夫だよ。と嫌がる君に夏期講習だけでもと勝手に申し込みをした。…君が内緒で君の実父と会っていることを知ってしまったから。
 私がしっかりしないと君を実父に取られてしまう。私と家族でいる方が幸せなんだと、そう思い直して欲しかった。
 ボタンを押すとガシャンと大きな音を立ててペットボトルが落ち、ハッと我に返る。

 君のことを一番近くで姉として守れることが幸せだ。このままずっと家族として側にいたい。

 大好きな君の元へ自転車を走らせる。君の好きな天然水のペットボトルを自転車カゴにそっと忍ばせて。