夏の始まりの河川敷で、参考書を読む君に「私のことを見て。」と想いを込めて言った。

 どうせ叶わぬ恋ならば。一度くらい本音を言っても良いでしょ。それは揶揄いなんかじゃなく、私の一番の願いだった。
「これから夏期講習、サボらず全部行ったら、お姉ちゃんとデートしない?」
 願ってはいけない。それなのに、今まで何度も願ってしまった。

 どうせ叶わぬ恋ならば、一度だけでいいから君と恋人になりたい。それが君と私を傷つけることになっても、それでも良いから。

 今年の誕生日は君とデートしたい。あの頃みたいに。そして、ちゃんとお別れしよう。私たちが家族でいる為に。

 君が気持ちを伝えてくれた日から数日が経った。君とはあの夜はなかったかのように以前と同じように過ごしている。姉弟として。

 家族で囲む夕飯。美桜が口を開く。
「今年のお姉ちゃんの誕生日も家でパーティーするよね?」
「…ごめん。その日、約束してて。」
君が私を見た気がした。
「えー!もしかしてデート?」
「うん。デート。夏祭りに行くの。…好きな人と。」
「じゃあ、兄ちゃん。僕たちとお留守番しよ!」
冬馬が口を挟んでくる。
「…お兄ちゃんも彼女とデートでしょ!」
そう言って美桜は君を見る。
「え?…うん。俺もその日、夏祭り行くって約束してるから。」
「いいなー。僕もデート行きたい!」
「何言ってるの。冬馬は私とお留守番。」
ムスッとした冬馬に美桜が耳元で何かを呟く。ふたりはニコニコしながら顔を見合わせて笑う。
「僕は姉ちゃんとお留守番するからお祭り行ってきていいよ。でも早く帰ってきてね。お腹いっぱいになるまで食べないでね。」冬馬は楽しそうに笑った。
「何それ?うん、分かった。ふたりともありがとう。」
そう言って、ふと君の方を見ると君は少し切なそうに笑っていた。