君の実父に会うことになった。
君と他人になったら、側にいる理由もなくなる。
君が大学生になったらこの家を出て行ってしまう。今日までの態度からそんな気がした。
久しぶりに会った彼は端正な顔立ちに似合わない不安そうな顔をしていた
「今日は時間を作ってくれてありがとう。」
時折、優しい顔を覗かせる彼にどうしても心を開けない。
彼はママと同じように自分の子供を捨てた人だ。なのに今更どうして、私の大切な人を奪うの?
きっとすぐに本題に入って言われるのだろう。
「あの時、言ったように君が育てるのは無理だっただろ。」と。
敵対心を覗かせる私に彼は語りだした。彼と夏空のお母さんの話を。
「だから、僕は夏空の父親になりたい。君には申し訳ないけど、夏空を…僕に返して欲しい。」
そんな話を聞かされたら断る理由なんて無い。
「…あの時、素直にお返ししていれば良かったですね。赤の他人の私が夏空を奪う権利なんてなかったのに。」
あの日からの君を想い出す。夕飯を作って帰りを待ってくれている君。
「疲れてない?」ってミルクティーをくれる君。朝早くに起きてお弁当を作ってくれる君。
君にいつも甘えて無理をさせていたね。私の前ではいつも優等生の君。もし、彼の元で生活していたらもっと高校生らしい生活を送れていたのかもしれない。
遠慮せずに塾にも通って、やりたいことをして、もっと成長することが出来ていたかもしれない。
…だけど、やっぱり私は今の家族が良い。今の家族が私の居場所だから。
そんな自分勝手な理由で今まで君を手放さなかった。
「今まで夏空を育ててくれてありがとう。清夏ちゃんのお陰で彼はとても優しい子に育ったよ。
まだ高校生だったのに清夏ちゃんはよく頑張った。大人の僕が手を差し伸べなければいけなかったのに今まで何も出来ずにごめんね。」
優しい言葉に胸が締め付けられる。
私は褒められる人間ではない。ただ自分の為に居場所を守るためにそうしてきただけだ。独りぼっちにならないように。
私の目から静かに涙が零れ落ちた。それとほぼ同時に不安が込み上げる。
これからどうしよう。君がいなくなったあの家で美桜と冬馬は私を家族として受け入れてくれるだろうか。血の繋がっていない私を。赤の他人の私を。
君みたいに離れていってしまったら?突然、見知らぬ誰かが目の前に現れて妹弟たちを引き取りたいと言い出したら?
私はどうなってしまうんだろう。考えると不安で堪らない。
「大丈夫?」
ハッと我に返ると彼は心配そうに見つめていた。
「大丈夫です。夏空を…弟を幸せにしてください。」
無理矢理、笑顔を作る。
私が出来なかった分も君を幸せにして欲しい。手続きには2週間程かかるらしい。2週間で君と他人になる。
君に叶わぬ恋をした。姉でいることも許されなかった。目の前に座る彼はどこか私と似ていて同じような悲しい目をしていた。
▲▽▲
蘇るのはあの日の記憶。
あの日、僕の子供に初めて会った。13歳だが、まだ小学生のように見える幼い男の子。でも、
「僕は姉ちゃんが良い!」
そう言う彼の目は姉を見つめる目ではなかった。美春に恋をしていた僕と同じ目をしていた。
今、目の前にいる彼女は静かに涙を零した。
「弟を幸せにしてください。」
彼の想いは彼女に届いていない。
美春と最後に会った日。この喫茶店で、別れ話を切り出した美春と大喧嘩になった。でも、明日には元通りだと。そう思っていた。もう二度と会えなくなるなんて思いもしなかった。
去り際、小さくなっていく彼女の後ろ姿が美春と重なる。
「待って!」
追いかけて呼び止めた。驚いて振り返る彼女に僕は言う。
「ちゃんと夏空と話し合って、今後のことをふたりでしっかり。後悔しないように。…僕たちのようにはならないで。」
彼女は不思議そうな顔をして微笑み、頷いた。
こんなにも近くで同じ時間を過ごしているのに伝わらない、通じ合えないなんて、あの頃の僕らみたいだと思った。
あの頃の僕と夏空が重なる。
彼を幸せにできるのはあなただけなんだよ。ただ側に居てくれるだけで僕は幸せだったのだから。
大人たちが言っていた「君の大事な将来」よりも僕が欲しかったのはもっと暖かくて幸せな僕の家族との未来だった。
君と他人になったら、側にいる理由もなくなる。
君が大学生になったらこの家を出て行ってしまう。今日までの態度からそんな気がした。
久しぶりに会った彼は端正な顔立ちに似合わない不安そうな顔をしていた
「今日は時間を作ってくれてありがとう。」
時折、優しい顔を覗かせる彼にどうしても心を開けない。
彼はママと同じように自分の子供を捨てた人だ。なのに今更どうして、私の大切な人を奪うの?
きっとすぐに本題に入って言われるのだろう。
「あの時、言ったように君が育てるのは無理だっただろ。」と。
敵対心を覗かせる私に彼は語りだした。彼と夏空のお母さんの話を。
「だから、僕は夏空の父親になりたい。君には申し訳ないけど、夏空を…僕に返して欲しい。」
そんな話を聞かされたら断る理由なんて無い。
「…あの時、素直にお返ししていれば良かったですね。赤の他人の私が夏空を奪う権利なんてなかったのに。」
あの日からの君を想い出す。夕飯を作って帰りを待ってくれている君。
「疲れてない?」ってミルクティーをくれる君。朝早くに起きてお弁当を作ってくれる君。
君にいつも甘えて無理をさせていたね。私の前ではいつも優等生の君。もし、彼の元で生活していたらもっと高校生らしい生活を送れていたのかもしれない。
遠慮せずに塾にも通って、やりたいことをして、もっと成長することが出来ていたかもしれない。
…だけど、やっぱり私は今の家族が良い。今の家族が私の居場所だから。
そんな自分勝手な理由で今まで君を手放さなかった。
「今まで夏空を育ててくれてありがとう。清夏ちゃんのお陰で彼はとても優しい子に育ったよ。
まだ高校生だったのに清夏ちゃんはよく頑張った。大人の僕が手を差し伸べなければいけなかったのに今まで何も出来ずにごめんね。」
優しい言葉に胸が締め付けられる。
私は褒められる人間ではない。ただ自分の為に居場所を守るためにそうしてきただけだ。独りぼっちにならないように。
私の目から静かに涙が零れ落ちた。それとほぼ同時に不安が込み上げる。
これからどうしよう。君がいなくなったあの家で美桜と冬馬は私を家族として受け入れてくれるだろうか。血の繋がっていない私を。赤の他人の私を。
君みたいに離れていってしまったら?突然、見知らぬ誰かが目の前に現れて妹弟たちを引き取りたいと言い出したら?
私はどうなってしまうんだろう。考えると不安で堪らない。
「大丈夫?」
ハッと我に返ると彼は心配そうに見つめていた。
「大丈夫です。夏空を…弟を幸せにしてください。」
無理矢理、笑顔を作る。
私が出来なかった分も君を幸せにして欲しい。手続きには2週間程かかるらしい。2週間で君と他人になる。
君に叶わぬ恋をした。姉でいることも許されなかった。目の前に座る彼はどこか私と似ていて同じような悲しい目をしていた。
▲▽▲
蘇るのはあの日の記憶。
あの日、僕の子供に初めて会った。13歳だが、まだ小学生のように見える幼い男の子。でも、
「僕は姉ちゃんが良い!」
そう言う彼の目は姉を見つめる目ではなかった。美春に恋をしていた僕と同じ目をしていた。
今、目の前にいる彼女は静かに涙を零した。
「弟を幸せにしてください。」
彼の想いは彼女に届いていない。
美春と最後に会った日。この喫茶店で、別れ話を切り出した美春と大喧嘩になった。でも、明日には元通りだと。そう思っていた。もう二度と会えなくなるなんて思いもしなかった。
去り際、小さくなっていく彼女の後ろ姿が美春と重なる。
「待って!」
追いかけて呼び止めた。驚いて振り返る彼女に僕は言う。
「ちゃんと夏空と話し合って、今後のことをふたりでしっかり。後悔しないように。…僕たちのようにはならないで。」
彼女は不思議そうな顔をして微笑み、頷いた。
こんなにも近くで同じ時間を過ごしているのに伝わらない、通じ合えないなんて、あの頃の僕らみたいだと思った。
あの頃の僕と夏空が重なる。
彼を幸せにできるのはあなただけなんだよ。ただ側に居てくれるだけで僕は幸せだったのだから。
大人たちが言っていた「君の大事な将来」よりも僕が欲しかったのはもっと暖かくて幸せな僕の家族との未来だった。