あの人に彼氏が出来た。僕が知らないうちに僕の知らないところで僕の知らない男と付き合っていた。
 部屋のベットの上で目を(つぶ)りながら考える。
 一番近くにいたのに、想いを隠して弟として隣にいたのに。一体、何をしてたんだ。

 あの人は訊ねた。
「夏空の好きな人はどんな人?」
そんなの清夏に決まってる。

 でも苛立って嘘を吐いた。

 3歳年上で「同級生で」、髪はセミロング「髪が長くて」、今まで僕に向けてくれたあの人の笑顔を想い出す。笑顔の優しい人「…笑顔の優しい人。」

 僕の好きな人は清夏だよ。あの人を見つめた。気づいてよ、僕の嘘に。そう想いを込めて。

 …でも、あの人の恋人は、好きな人は
“ 年上で自立してて紳士的な大人の男性(ひと)”。
そんなの僕にはどうしたってなれない。

 あの人の初恋は間違いなく僕だ。でも、あの日から色んな経験をして好きな人も変わっていって、あの約束も忘れてしまったのだと。今日、ちゃんと分かった。

 …でも、こんなことで諦められるのなら
「もう、とっくに諦めてるよ。」

 俺の想いはその辺に転がっているものとは違う。あんな奴に簡単に取られてたまるか。
 ゆっくりと目を開け、ベットから起き上がる。

ーさあ、作戦決行だ。

♦︎♢♦︎

 リビングに降りるとあの人は風呂から上がったばかりだった。
「姉ちゃん、さっきはごめん。」
あの人は微笑む。
「私もごめん。…ちゃんと言えてなかったね。おめでとう。」

 僕は作り笑いで誤魔化す。椅子に座り、本題に入る。
「相談があるんだけど。」
 そう切り出すとあの人は不思議そうな顔をした。
「実は、彼女の誕生日が近くてさ。明日、プレゼント探すの手伝ってくれない?」
「うん。いいよ!」
あの人は嬉しそうに笑った。

前哨戦(ぜんしょうせん)はクリア。》

 明日は一緒に誕生日プレゼントを探しに行く。あの人への。僕が彼女なんて作るわけない。気づかれないようにあの人が本当に欲しいもの見つける。
ー決戦の日だ。