目的地の工場に着いた。正確には山奥の廃工場だ。
老朽化した建物にはツタがはい回り、いかにも何かが出そうな心霊スポットと化している。
「なあ、ここ、ヤバいんじゃあ……」
ハンドルを握る俺は思わず訊いた。
「当たり前じゃない。死霊使いがいる場所なんだから。ディズニーランドみたいな場所だとでも思っていたの?」
お前の世界にもあったのか、ディズニーランド。まあ、祓い師やら悪霊やらがいる以外はパラレルワールドみたいなものだから、あっても不思議ではねえな。一人で勝手に納得する。
「あるわ。年間パス持ってるし」
「そうか」
もうこれ以上ツッコむのはやめることにした。
廃工場からは素人の俺からしても尋常でないオーラが漂っている。悪霊の放っている瘴気というやつだろうか。
「ちなみに、俺らの妨害をした奴を見つけたらどうするつもりなんだ?」
「くだらないことを訊くのね」
レイが溜め息を吐く。本当に愚かな奴を仕方なく相手にしているという風だった。
「そんなの、殺すに決まっているじゃない」
まさかの殺害予告。この女が味方で本当に助かったのか疑問がわいてくる。
「あなたは知らないでしょうけど、祓い師というのは尊敬される存在なの。人々を悪霊から救い出し、災厄とも言える存在の怪異を倒す。そんなことが出来る存在は祓い師だけなの」
「まあ、そうでしょうね」
棒読みで答える。俺の心理を知ってか知らずか、レイは勇ましい口調で話しを続ける。
「祓い師に弓を引くってことはね、社会全体を敵に回すということなの。分かる? そんな奴、生きている価値なんて無いのよ」
そうですか――心の中だけで答えて、それ以上話を広げるのをやめた。
要約すれば祓い師の篠森レイは自身の計画を邪魔されてひどくご立腹のようだった。その落とし前としてまだ見ぬ敵さんは無残にも殺されるらしい。
まだ見ぬ敵は知らない奴だけど、十字でも切って悼んでやりたくなる。きっと本当にむごい殺され方をするのだろう。
車を停めて廃墟とかした工場へと入る。古くなって錆び付いたベルトコンベアに、何年も放置されているであろうフォークリフト。
会社が潰れても売ればそれなりの金になったのではないかと思うが、そう思い至らないほどの切羽詰まる何かがあったのだろうか。あまり深くは考えたくない。
レイは身を低くして周囲に注意を払いながら進んでいく。ただ付いていくだけの俺も、レイに釣られてすぐゲームオーバーになりそうなスネークもどきの動きで辺りを警戒しつつ進んでいく。
明らかにここには何かがいる。鼓動が早くなっていく。周囲から、霊魂らしき何かの発する警告が聞こえる気がする。そんな気がするだけだけど。
歩き回って、広間のようなところに出る。周囲には機材はあれど、開けた空間があった。
レイが立ち止まる。
「さっきから見ているんでしょう? つまらない遊びはやめて出てきなさい」
広間に向かって強い口調で言うと、どこからともなく声が聞こえてくる。
「あらら。バレちゃってたか。さすが霊媒師ってやつだね」
「祓い師よ」
レイがピシャリと言うと、暗闇の中から人の影が浮き出してくる。
その人影は徐々に影を帯びて、一人の少女らしき姿へと変わっていく。その姿はあどけないぐらいのいでたちで、フリルのたくさん付いたピンクのブラウスに紫色のスカート。同じく紫色に染め上げた髪はツインテールに結われて微風で揺れていた。
その姿は、世にいう地雷系女子というやつだった。
「やっほ」
虚空から現れた少女(らしきもの)は小首を傾げながら、可愛らしく作り上げた声で自身の存在をアピールする。
何も無い空間から廃工場の床へとストンと降りると、軽やかな足取りであちこちへ移動していく。
「でも、さすが霊媒師。よくここが分かったね」
「あれだけ悪臭みたいな霊気が漂っていれば、三流の祓い師でも気付くわよ」
「そっか。そりゃ失態だったね」
俺のことなんか完全に置いてけぼりにして、レイと地雷女子は勝手に話を進める。
「死ぬ前に教えて頂戴。どうして私の邪魔をしたの?」
「それはねえ、あなたみたいな霊媒師がこの世界にいたら色々とやりにくくなるからだよ」
要領を得ない答え。地雷女子の言葉は答えになっていなかった。レイは構わず訊く。
「誰の指示でやったの?」
「そんなの言うわけないじゃない。聞きたければ力づくで吐かせてみれば?」
「じゃあそうするわ」
レイが小太刀を抜く。それと同時に、周囲にポツポツと悪霊らしき炎が浮かぶ。古びたコンクリの床がめくり上がり、ゾンビが姿を現しはじめる。
「死霊使いね」
「リリちゃんだよ。あなたの命をいただくからね」
地雷少女は全身からおぞましい色のオーラを放っている。周囲の空気が重くなり、地面から急成長するエリンギのように死霊と死体がわき出てきた。
「うわわわわ!」
ガチで焦る俺、すぐそこにガイコツ、ゾンビ、あと死神みたいなビジュアルの奴。ふざけんな!
レイは構える。待て、勝手に始めるな。俺はどうしたらいいんだ?
俺の混乱をよそに、バケモノたちの対決が始まる。
「それじゃあ、楽しく遊びましょう」
ツインテールの地雷女子が邪悪な笑いを浮かべる。
俺は楽しかねえよ。
心の抗議は届かず、バケモノたちが迫ってくる。
――逃げそこなった。
脳裏をよぎる言葉。どうやら俺は、バケモノ同士の闘いに巻き込まれたようだった。
老朽化した建物にはツタがはい回り、いかにも何かが出そうな心霊スポットと化している。
「なあ、ここ、ヤバいんじゃあ……」
ハンドルを握る俺は思わず訊いた。
「当たり前じゃない。死霊使いがいる場所なんだから。ディズニーランドみたいな場所だとでも思っていたの?」
お前の世界にもあったのか、ディズニーランド。まあ、祓い師やら悪霊やらがいる以外はパラレルワールドみたいなものだから、あっても不思議ではねえな。一人で勝手に納得する。
「あるわ。年間パス持ってるし」
「そうか」
もうこれ以上ツッコむのはやめることにした。
廃工場からは素人の俺からしても尋常でないオーラが漂っている。悪霊の放っている瘴気というやつだろうか。
「ちなみに、俺らの妨害をした奴を見つけたらどうするつもりなんだ?」
「くだらないことを訊くのね」
レイが溜め息を吐く。本当に愚かな奴を仕方なく相手にしているという風だった。
「そんなの、殺すに決まっているじゃない」
まさかの殺害予告。この女が味方で本当に助かったのか疑問がわいてくる。
「あなたは知らないでしょうけど、祓い師というのは尊敬される存在なの。人々を悪霊から救い出し、災厄とも言える存在の怪異を倒す。そんなことが出来る存在は祓い師だけなの」
「まあ、そうでしょうね」
棒読みで答える。俺の心理を知ってか知らずか、レイは勇ましい口調で話しを続ける。
「祓い師に弓を引くってことはね、社会全体を敵に回すということなの。分かる? そんな奴、生きている価値なんて無いのよ」
そうですか――心の中だけで答えて、それ以上話を広げるのをやめた。
要約すれば祓い師の篠森レイは自身の計画を邪魔されてひどくご立腹のようだった。その落とし前としてまだ見ぬ敵さんは無残にも殺されるらしい。
まだ見ぬ敵は知らない奴だけど、十字でも切って悼んでやりたくなる。きっと本当にむごい殺され方をするのだろう。
車を停めて廃墟とかした工場へと入る。古くなって錆び付いたベルトコンベアに、何年も放置されているであろうフォークリフト。
会社が潰れても売ればそれなりの金になったのではないかと思うが、そう思い至らないほどの切羽詰まる何かがあったのだろうか。あまり深くは考えたくない。
レイは身を低くして周囲に注意を払いながら進んでいく。ただ付いていくだけの俺も、レイに釣られてすぐゲームオーバーになりそうなスネークもどきの動きで辺りを警戒しつつ進んでいく。
明らかにここには何かがいる。鼓動が早くなっていく。周囲から、霊魂らしき何かの発する警告が聞こえる気がする。そんな気がするだけだけど。
歩き回って、広間のようなところに出る。周囲には機材はあれど、開けた空間があった。
レイが立ち止まる。
「さっきから見ているんでしょう? つまらない遊びはやめて出てきなさい」
広間に向かって強い口調で言うと、どこからともなく声が聞こえてくる。
「あらら。バレちゃってたか。さすが霊媒師ってやつだね」
「祓い師よ」
レイがピシャリと言うと、暗闇の中から人の影が浮き出してくる。
その人影は徐々に影を帯びて、一人の少女らしき姿へと変わっていく。その姿はあどけないぐらいのいでたちで、フリルのたくさん付いたピンクのブラウスに紫色のスカート。同じく紫色に染め上げた髪はツインテールに結われて微風で揺れていた。
その姿は、世にいう地雷系女子というやつだった。
「やっほ」
虚空から現れた少女(らしきもの)は小首を傾げながら、可愛らしく作り上げた声で自身の存在をアピールする。
何も無い空間から廃工場の床へとストンと降りると、軽やかな足取りであちこちへ移動していく。
「でも、さすが霊媒師。よくここが分かったね」
「あれだけ悪臭みたいな霊気が漂っていれば、三流の祓い師でも気付くわよ」
「そっか。そりゃ失態だったね」
俺のことなんか完全に置いてけぼりにして、レイと地雷女子は勝手に話を進める。
「死ぬ前に教えて頂戴。どうして私の邪魔をしたの?」
「それはねえ、あなたみたいな霊媒師がこの世界にいたら色々とやりにくくなるからだよ」
要領を得ない答え。地雷女子の言葉は答えになっていなかった。レイは構わず訊く。
「誰の指示でやったの?」
「そんなの言うわけないじゃない。聞きたければ力づくで吐かせてみれば?」
「じゃあそうするわ」
レイが小太刀を抜く。それと同時に、周囲にポツポツと悪霊らしき炎が浮かぶ。古びたコンクリの床がめくり上がり、ゾンビが姿を現しはじめる。
「死霊使いね」
「リリちゃんだよ。あなたの命をいただくからね」
地雷少女は全身からおぞましい色のオーラを放っている。周囲の空気が重くなり、地面から急成長するエリンギのように死霊と死体がわき出てきた。
「うわわわわ!」
ガチで焦る俺、すぐそこにガイコツ、ゾンビ、あと死神みたいなビジュアルの奴。ふざけんな!
レイは構える。待て、勝手に始めるな。俺はどうしたらいいんだ?
俺の混乱をよそに、バケモノたちの対決が始まる。
「それじゃあ、楽しく遊びましょう」
ツインテールの地雷女子が邪悪な笑いを浮かべる。
俺は楽しかねえよ。
心の抗議は届かず、バケモノたちが迫ってくる。
――逃げそこなった。
脳裏をよぎる言葉。どうやら俺は、バケモノ同士の闘いに巻き込まれたようだった。