「……うそ」
「うそじゃない。だって同じ人間なんていないし」
「いやそんなレベルじゃないだろ、明らかに異常だろ」
「そんなことない。雨宮はきっと──、」

"人一倍純粋なんだと思う"

そう思ったけれど。俺の何を知ってるんだ、とかって怒られそうな気がして、私は言葉を飲み込んだ。

「……誤解しててごめん。一番ムカつく男とか思ってて……ごめん」
「……一番かよ光栄だわ」

 "美しい心は瞳に表れる"って、どこかで聞いたことがある。……私はこんなに綺麗な瞳を見たことがない。やっぱり雨宮は誰よりも純粋で、繊細で。だからこそ涙が出てきやすいんだ、きっと。

「……雨宮、この前私に話しかけてくんなって言ったよね」
「うん。もう明日からは話しかけてくんな」
「無理」
「なんで」
「もう触んないから」
「理由になってねぇ」

 本当の理由は──雨宮が嫌な奴じゃないってわかったからだ。
 今までは雨宮にキツい態度を取られて、とんでもなく嫌な奴なんだって決めつけていた。だけどちゃんと考えたらわかることだった。全部が全部嫌なところしかない人なんて、いない。見えている部分だけが、その人の全てじゃない。

「話しかけられたくない理由は、触られたら困るから?それとも女子が苦手だから?」
「……どっちも」

 この人は冷たいオーラを放っているけれど、暗い空気にならないように口数を増やしたり、泣いてしまった私の気を紛らわすために自ら涙を流すような、優しい人だったんだ。ただ少し、不器用なだけで。
 ……もっと本当の雨宮のことが、知りたい。

「……私、もう人を上面だけ見て決めつけない。だから雨宮も私のこと、女だから苦手だって決めつけないで」

 私が真剣な顔で言うと、雨宮は呆れたように溜息を吐く。

「なにそれ」

 そして雨宮はくるりと、こちらに背中を向けた。その耳はなぜかほんの少し、赤くなっている。

「……約束して」
「え?」
「俺の体質のこと、誰にも言わないで」

 そう言って顔をこちらに向けた雨宮は、目がくらみそうなくらい眩しかった。
 きっと、強い日差しが金色の髪に反射しているからだ。……きっと、そうだ。

「うん、約束する」

 私は、歯を見せて笑った。

「……まぁ、女は口軽いか」
「だから決めつけないでって」
「はいはい」

雨宮が歩き出すと、私は一歩後ろを同じように歩いて行く。

「……俺も嫌な態度とって悪かった」
「ん?なんか言った?」
「……なんも」

 王子と呼ばれて、女嫌い。
 そんな人と秘密の共有なんて、まるで少女漫画の世界みたいな出来事だ。

 っていうか、そうだとしたらヒロインは私?
 ……ないないない。
 ドレス姿の自分を想像して、私は苦笑いを浮かべた。